まみ めも

つむじまがりといわれます

背高泡立草

ニューシャトルの沿線にある職業訓練校に通っているらしい男の人と朝の通勤で一緒になることがあって、乗り換えのコンコースでその人がうしろを歩いていると、ぼそぼそとしたひとり言が追いかけてくる。脈絡はわからないながらいつも無理だとつぶやいていて、無理、無理なの、もう無理なの、と言っているのが断片的にきこえる。聞きながら、そーだそーだ、無理むりムリ、とうなずいてしまう。六回まで数えながらうなずいてあとは数えるのが無理になった。

仕事を再開してからいよいよ目がドライで、ムコスタ点眼液UD2%を日に四回点眼する。ムコスタは忘れたころになって時間差でのどに苦さがくるのが、なんとなくよくて、目からいれたものが喉であとから苦いというのがおもしろい。目が白く濁るので、こどもたちがおののいている。

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草

  • 作者:古川 真人
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 単行本
 

ト。

草は刈らねばならない。そこに埋もれているのは、納屋だけではないから。長崎の島に暮らし、時に海から来る者を受け入れてきた一族の、歴史と記憶の物語。『すばる』掲載を単行本化。

夏になると、朝夕のすずしいときに庭にかがみこんで草をむしっていた母のたたずまいを思い出す。全部やり終えたときにははじめたところにはもう草がはえだしていて、草むしりとは果てないものだった。おなじことを繰り返しながら、とどまれない。