まみ めも

つむじまがりといわれます

文豪お墓まいり記

友人のKKちゃんが退院後の暮らしを気づかって、おかずを宅配便で送ってくれた。切干大根と、ミートソースをたっぷり。切干大根は、自家製の干した大根で作ってあり、人参と厚揚げと煮てあった。タッパーにたっぷり詰められたおかずに思いやりがしみて、ありがたさに泣けてくるのだった。ミートソースはタコライスにしたり、スパゲティにしたり、残りはグラタンとオムレツに。だれかの力になりたいと思うとき、こんなふうにおかずを届けたっていいんだな。

文豪お墓まいり記

文豪お墓まいり記

 

ト。

永井荷風(先輩作家)と谷崎潤一郎(後輩作家)は七歳差です。
谷崎はデビューしたとき、先輩作家である荷風から自分の小説を褒めてもらえたことが嬉しくてたまりませんでした。
一九四五年八月十四日、二人は疎開先の岡山で再会します。終戦の前日に、谷崎は牛肉を手に入れ、すき焼きでもてなします。
……このように、文豪たちは互いに関わりながら生きていました。今は、お墓の中にいます。時代が違うので、実際には関われませんが、お墓には行けます。現代の作家が、昔の作家に会いにいきます。

二十六人の文豪たち――中島敦永井荷風織田作之助澁澤龍彦金子光晴谷崎潤一郎太宰治色川武大、三好十郎、幸田文歌川国芳武田百合子堀辰雄星新一幸田露伴遠藤周作夏目漱石林芙美子獅子文六国木田独歩森茉莉有吉佐和子芥川龍之介、内田百閒、高見順深沢七郎

多肉植物といいお墓まいりといい、山崎ナオコーラの目の付けどころにグッとくる。実家が北浦和と知って妙な親近感までわいてしまった。それぞれ、供えたものについて丁寧に記してある。以下抜粋。

中島敦 かわいらしいピンク色の小さな花が集まったミニ花束
永井荷風 センニチコウ
澁澤龍彦 コンビニエンスストアで小さな赤ワインを購入
金子光晴 事務所前で売っていたピンクの薔薇が入った花束
太宰治 駅前で買った花と、家から持ってきたさくらん
色川武大 花屋で買ったきちんとした花束と、うちの庭の花を摘んで自分で包んだらしいくたくたの花束 母は「ムーンライト」というクッキーも出して、個包装されたひとつを墓に供えた
三好十郎 門前にある花屋で墓に供える花を購入
幸田文 買ってきた菊の花
歌川国芳 百九十八円の黄色い菊の花束 オリンピック
武田百合子 濃いピンク色をしていて、ひとつの花が直径二十センチもある「オリエンタルリリー クイーンフィッシュ」という一本九百八十円(!)の花を二本買った
堀辰雄 小金井街道にあるCO-OPで、百九十八円の水仙の花束を買った
幸田露伴 文のときと同じ花屋で花を買い
夏目漱石 駅前にある青山フラワーマーケットで七百十円の墓まいり用ブーケを買ってから
林芙美子 菊の花束を購入
獅子文六 新宿の駅前の花屋で、ピンク色の小さな花束を買う

値段が書いてあるのもいいけれど、ハイライトはやっぱりおかあさんが墓前に供えたムーンライトだと思う。やっぱりかばんにはなにかお菓子を入れておこう。とりあえず花のくちづけは常備したい。次点として、森永ハイソフト、チェルシー

ボーイミーツガールの極端なもの

夕暮れ前にむっと暑くなる日が続く。二階の寝室に昼間の暑さがこもるので、扇風機を出して、夜はつけっぱなしにしている。何年か前に買い換えた扇風機には、ファジー運転がないのがちょっとつまらない。

数日前、やたらとうぐいすがなく日があって、近く遠く、夕飯どきまで澄んださえずりが耳にあざやか。その日の午後はテレビもラジオもつけないで、さえずりをBGMに本を読みながらウトウトした。きのうの午後に一度はっとするほど近くできこえて、窓の外に姿を探したけれどみえなかった。きょうは遠くへいってしまったのかきこえてこない。

おかあさんが帰る前に、なにか好きなおかずを作ってくれるというので、じゃがいもの甘辛くバターで煮つけたものと、金時豆の甘煮をお願いした。わざと煮崩れるまで火を入れてもらう。ひとりの午後、煮豆にきな粉をたっぷりかけて、おやつがわりに食べる。なくなってしまうのが惜しい。

ボーイミーツガールの極端なもの

ボーイミーツガールの極端なもの

 

ト。

“恋愛は苦手だけど、恋愛小説は好き”なあなたに贈る、心に柔らかい刺を残す連作短編小説集。人気多肉植物店「叢」のサボテンの写真と山崎ナオコーラのラブストーリーを収録。『honto+』連載に書下ろしを加えて書籍化。

処女のおばあさん

野球選手の妻になりたい

誰にでもかんむりがある

恋人は松田聖子

「さようなら」を言ったことがない

山と薔薇の日々

付き添いがいないとテレビに出られないアイドル

ガールミーツガール

絶対的な恋なんてない

山崎ナオコーラの本はなんたってタイトルがいつもいい。多肉植物の写真に添えられたコメントを読んでいたら、わけがわからない内容に悠久な気持ちになって、時間がどこまでも伸び縮みするようだ。

レンタネコ

おかあさんが帰って、日常のリズムが戻ってきつつある。おかあさん、帰る日の朝に、食パン二斤ぶんのサンドイッチを作り、トイレットペーパーを買ってきて、渡しておいたカードに電子マネーをたっぷりいれてくれた。母の愛と簡単なことばで片づけられないものすごいものを差し出されて、あああ、ほんとうにたまらない気持ちがする。日の当たる曲がり角で立ち止まって振り返り、手を振るおかあさんが、見えなくなったとき、泣いてしまった。

レンタネコ [Blu-ray]

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プ。

古びた日本家屋でたくさんの猫と暮らすサヨコは、心寂しい人に猫を貸すという“レンタネコ屋”を営んでいる。ただし、誰でも借りられるわけではなく“猫を貸すことにふさわしい条件がそろっているか”の審査に合格することが条件。幼いころから猫に好かれていたサヨコは、彼らの気持ちをくんで、心寂しい人たちと猫を引き合わせていく。猫を貸し出して回るサヨコと、年齢も境遇も異なる猫の借り手たちの心温まる物語。

市川実日子みたいにずるずるした格好が似合えばなあ。時間がとまりそうなぎりぎりの間合い。

しびれる短歌

ざあざあ降る雨で一日そとに出られない、と思ってみたけれど、退院してひと月が過ぎるまでは家におこもりなのだったっけ。おかあさんはあしたの朝まで、きょうは雨のなかを二度おつかいに出て、キャベツやじゃがいもや玉ねぎの重たい野菜を買い込んで、とり肉のつくねやスパゲティサラダやカレーを作りおきしてくれた。あしたの朝はお昼のサンドイッチをこしらえていくらしい。とことんかわいげのない娘にここまでやってくれる母のもの凄さにくらくらする。

しびれる短歌 (ちくまプリマー新書)

しびれる短歌 (ちくまプリマー新書)

 

ト。

恋の歌、いまがわかる家族の歌、イメージを裏切る動物の歌、人生と神に触れる時間の歌、豊かさと貧しさを歌ったお金の歌、表現が面白いトリッキーな歌…。ふたりの歌人東直子(ひがしなおこ)と穂村弘(ほむらひろし)が、さまざまな短歌をとりあげ、作品の向こうの景色や思いを語る。

短歌というものがよくわからないながら、さわりたい。でも、じかにさわるのは自信がなくて、穂村弘東直子をつかってさわる。なんとなくわかったような気になるけれど、本当はなにもわからないままただふれてしびれておればいいんだよな。

えーえんとくちから

退院の二日後におかあさんが来て、家のこまごまとした仕事を片付けてくれている。庭の草取り、シーツの洗濯、掃除機、炊事、買い出し。きょうは小学校がお弁当給食で、おかあさんにお弁当作りをまかせて、こちらは七時までぐーぐー寝た。おかあさんのお弁当がうらやましくなり、わたしもおねだりをしてお弁当箱に詰めてもらう。さつまいもの豚肉巻き揚げ、人参のグラッセ、玉子焼き、枝豆にプチトマト。おかあさんの玉子焼きは几帳面に黄色が均一に巻いてある。こどもたちにはフルーツもはいり、おにぎりは全体に海苔を巻いてまっくろなかたまりがふたつ。このばくだんみたいなまっくろいおにぎりを見ると、おかあさんのおにぎりだなあとなつかしく胸がキュンとする。おかあさんのお弁当をこれからあと何回食べられるだろうかということを考えてしまう。もったいなくて写真を撮った。

えーえんとくちから (ちくま文庫)

えーえんとくちから (ちくま文庫)

 

ト。

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい

2009年、26歳でこの世を去った歌人・笹井宏之。鋭敏で繊細なまなざしから生まれた、やさしくつよい言葉が詰まった作品集。未発表原稿を加えて文庫化。

透きとおったことばで編まれた切実な短歌たち。ていねいにすくい取られた瞬間の凝縮した三十一文字は、えーえんとくちからがもたらしたものなのかもしれず。

葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある

風立ちぬ

二週間がたち、きのう期限ぎりぎりで出生届を提出。二択にしぼってからなかなか決めきれず、あみだくじもやって、ようやっと、源三に決まった。うまれてすぐに瞳がうるうるしてたので、さんずいの名前がよかった。名前が決まるまではみんなでばぶちゃんばぶちゃんと呼ばっていたけれど、名前がつけられるともうげんちゃんという顔つきに見えてくる。気分のよいときにフニャッと一瞬だけわらうと、いろんなしんどさがふっとぶ。

貧血があるのか、ときどきぐらりと震度3くらいのめまいを起こすけれど、つわりが一挙になくなって満腹を感じない体になったので、もりもりごはんを食べている。いろんなものの味わいが戻ってきたかわりに、つわりのときにすがるように食べていた甘夏やトマトの格別な味わいは立ち消えてしまった。

風立ちぬ [DVD]

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金ロー。

大正から昭和にかけての日本。戦争や大震災、世界恐慌による不景気により、世間は閉塞感に覆われていた。航空機の設計者である堀越二郎はイタリア人飛行機製作者カプローニを尊敬し、いつか美しい飛行機を作り上げたいという野心を抱いていた。関東大震災のさなか汽車で出会った菜穂子とある日再会。二人は恋に落ちるが、菜穂子が結核にかかってしまう。

はからずもヒコーキ野郎の映画を立て続けにみることに。翼を歩くシーンでロバート・レッドフォードと二郎が重なる。荒井由実の歌声ののびが心地よい。

華麗なるヒコーキ野郎

ばびの体重が減って、入院することになってしまった。もともとちいさかったのにさらにひと回りちいさくなり、吸う力が弱くなってしまったらしい。三日間で文庫本一冊くらいの重さが減っていた。体重の7パーセント弱。不甲斐なさとさみしさでじゅわじゅわ泣けて、静かな家に帰ってぼんやり時間を持て余す。よく日、診察のついでに絞ったおっぱいを届けたら、おっぱいが足りないだけなので帰ってよいということになり、夕方に退院のしたくをして迎えにいった。ほっとしたら涙のかわりにおっぱいがじゅわじゅわとしみでる、けもののわたくしである。

撮りためてあった「プ」から。原題はThe Great Waldo Pepper。

1920年代を舞台に、空を飛ぶ魅力に取り憑かれた男たちの生きざまを、勇壮に、ロマンティックに描いた名編。第一次大戦で空の勇士と名を馳せたパイロットたちも、今や遊覧飛行で日銭を稼ぐしがない身分。その中でもウォルド・ペッパーは曲乗り飛行で有名で、やがてハリウッドに招かれスタントマンとなる。そこで出会ったのが、終生のライバルであり憧れの人物でもある元ドイツ空軍の撃墜王ケスラー。ペッパーとケスラーは互いの技量に敬服しつつ、空中戦のスタントのため、二人して大空に舞い上がっていく……。

こちらも二度目のロバート・レッドフォード

華麗なるヒコーキ野郎 - まみ めも

華麗なるなんてもんではなく、とんでもないヒコーキ野郎たち。すべての人に約束されている死にぎりぎりまで近づくことで、いのちの濃度を高めようとしているような、でも、見てらんないな。