夕暮れ前にむっと暑くなる日が続く。二階の寝室に昼間の暑さがこもるので、扇風機を出して、夜はつけっぱなしにしている。何年か前に買い換えた扇風機には、ファジー運転がないのがちょっとつまらない。
数日前、やたらとうぐいすがなく日があって、近く遠く、夕飯どきまで澄んださえずりが耳にあざやか。その日の午後はテレビもラジオもつけないで、さえずりをBGMに本を読みながらウトウトした。きのうの午後に一度はっとするほど近くできこえて、窓の外に姿を探したけれどみえなかった。きょうは遠くへいってしまったのかきこえてこない。
おかあさんが帰る前に、なにか好きなおかずを作ってくれるというので、じゃがいもの甘辛くバターで煮つけたものと、金時豆の甘煮をお願いした。わざと煮崩れるまで火を入れてもらう。ひとりの午後、煮豆にきな粉をたっぷりかけて、おやつがわりに食べる。なくなってしまうのが惜しい。
ト。
“恋愛は苦手だけど、恋愛小説は好き”なあなたに贈る、心に柔らかい刺を残す連作短編小説集。人気多肉植物店「叢」のサボテンの写真と山崎ナオコーラのラブストーリーを収録。『honto+』連載に書下ろしを加えて書籍化。
処女のおばあさん
野球選手の妻になりたい
誰にでもかんむりがある
恋人は松田聖子
「さようなら」を言ったことがない
山と薔薇の日々
付き添いがいないとテレビに出られないアイドル
ガールミーツガール
絶対的な恋なんてない
山崎ナオコーラの本はなんたってタイトルがいつもいい。多肉植物の写真に添えられたコメントを読んでいたら、わけがわからない内容に悠久な気持ちになって、時間がどこまでも伸び縮みするようだ。