まみ めも

つむじまがりといわれます

ウは宇宙船のウ

11月22日に父が亡くなり、6月12日に遺産が振り込まれた。遺産を受け取ることが億劫で、のらりくらりと振込先を知らせずにごまかしてきたけれどそういうわけにもいかないらしい。大事に使ってくださいといわれた。それで、ふと思い立って「あなたのための短歌」を買うことにした。木下龍也さんの年齢×2×1000=6400円。おわかれの言葉を添えて注文しておいたものが、先週の金曜日に郵便受けに届いた。淡いブルーの封筒に、今よりふとっちょのドラえもんの切手が貼ってある。お花の並んだ便箋に丁寧な字で書かれた短歌は、まさしくわたしのためのものだった。元気だったころのおとうさんが言いそうなことで笑ってしまったあとでしんみりした。たしかに淡くいいにおいがする。懐かしいにおいで、久しぶりにそのにおいをまとっていた人のことを思い出した。戸棚にしまって、ときどき、取り出して、においを嗅いでいる。ここでにおっているのに遠くからきて、あのころに連れていく。においがしなくなったら、記憶を頼りにこのにおいのもとの瓶詰めを探そう。

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ブ。108円の値札が貼られているので、増税前に買ったらしい。R IS FOR ROCKET

ぼくたちはロケットが大好きだった。土曜日の朝の宇宙空港、爆音とともに大空へ消えゆく光点。いつかあのロケットで星の海を渡っていくことを、ぼくたちはずっと夢みていたのだった …。少年たちの宇宙への憧れに満ちた表題作をはじめ、深海の闇にまどろむ恐竜を100万年の時を越えてよびさます「霧笛」、万聖説の宵は妖魔たちの饗宴「集会」など、レイ・ブラッドベリの傑作短編を萩尾望都が描く、珠玉のSFポエジー全8編。

ウは宇宙船のウ

泣きさけぶ女の人

霧笛

みずうみ

ぼくの地下室へおいで

集会

びっくり箱

宇宙船乗組員

純度の高い世界にくらくらする。ひとりではいったロイヤルホストで、バンホーテンのココアを飲みながら、境目がわからなくなるようだった。スは宇宙のスもあわせて再読したい。

夜明けのおやすみ

仕事復帰まで二週間、梅雨空とあいまってなんとなく憂鬱な気持ちでモーニングを味わう日々。ロイヤルホストのモーニングはサラダモーニングのサラダをボイルエッグにしてもらうパターンに落ち着いてきた。ゆで卵がつるんと剥けるのが気持ちいい。ドリンクバーでホットココアとアイスカフェオレを入れて、ココアで甘く熱くなった舌をアイスカフェオレの苦さと冷たさで流す。アイスカフェオレはコーヒーとミルクのグラデーションになっているのを混ぜないでそのままにしておく。そのうち氷がとけてきて、グラデーションの色がさらに変わり、グラスの下に結露の水たまりができる。結露を指先でいじりながら本を読む。

先週、例の闇市風情の八百屋で赤しそが二束で百円の廉売になっていたので思わず買ってしまう。大きな鍋に湯を沸かし、沸騰したところに二回に分けて洗った葉を入れて煮出し、砂糖と酢を加えて、コーヒーフィルターを通す。氷をたっぷりいれたグラスにジュースを三分の一いれて炭酸水で割る。鮮やかな色がのどもとをすうっと通っていくのを想像する。それでも肌はかゆいし雨だし憂鬱も残るしするのだけれど、少しだけ気分が晴れる。

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金木書店で110円。和田さんのイラストがうれしい。1984年。

Ⅰ 人生はむづかしい

男の運勢

小説家のサービスの話から結婚の回数の話になりました

写真と味

アイスクリーム百杯

雨の男は定九郎

若旦那の修行

岡山に西国一の鮨やあり

文学的な庭

彼の釣魚大全

野坂昭如は確信犯なりや

菊池武一

丸やギ左衛門のこと

夢判断

サッカーは血を荒す

アメリカ的美徳

Ⅱ 探偵小説の楽しみ

フィリップ・マーロウといふ男

角川映画とチャンドラーの奇妙な関係

ケインとカミュと女について

Ⅲ 日本語それとも文章

最後の授業

勅語づくし

当節言葉づかひ

 娘たち

 電話の日本語

文体を夢みる

名文を読め

ちょつと気取つて書け

Ⅳ 文学もむづかしい

しどろもどろな文学辞典

香具山から最上川

橋姫

細雪』について

退屈を教へよう

夷齋おとしばなし

家の歴史

西の国の伊達男たち

なぜ書くのか

夜明けのおやすみ

解題・小田切

丸谷才一が徹夜で仕事をしていたころの文章をまとめたもの。

曰く、

そのころわたしは、硬軟さまざまの文章を夜どほしかかつて書きつづり、明け方あるいは早朝に書きあげると、倒れるやうに眠つたものだつた。「おやすみ」などとつぶやくゆとりはとてもなかつたが、しかしもしわたしが、なかば寝言のやうにしてさう言つたとすれば、それはいま書きあげたばかりの文章をやがて読んでくれる読者たちへの挨拶だつたらうと思ふ。

そんなわけで、27年後に丸谷さんも和田さんもいない令和の世界でおやすみの挨拶を受け取った。丸谷才一の文章は朗々と小気味よく、和田さんのブルーは鮮やかだ。

三の隣は五号室

土曜の朝、げんちゃんと一緒に窓の外を眺めていたせいちゃんが「ありえないことが起こった」と騒ぐので、のぞきにいくと、鴨の親子が紫陽花の植え込みを通って塀をくぐって家の前に抜けていくところだった。ちょこちょこと後ろに九羽の雛がついていく。むかいの屋根の上に烏が控えていて、祈るような気持ちで見送った。

夜はふーたんのお誕生日会をした。コカ・コーラ本麒麟で乾杯。少しコーラをわけてもらって本麒麟に注いだ。オムライスとおからのコロッケをリクエストで用意して、あとはサラダ。食後にチーズケーキ。チーズケーキはレモン汁を生クリームに入れて泡立て、クリームチーズと混ぜ合わせるレシピで。ココナッツサブレを砕いて半分に混ぜ、残りはいちごソースを入れて、二層にした。庭でとれたブルーベリーを六粒、星型のアラザンとチョコペンで「ふみちゃん」とハートの中に「5」を書いた。プレゼントはメルちゃんのおせわセットとだっこひもを西松屋で選んであって、でも、ないしょで買ってきてねと言われていた。わかっていたはずなのに、プレゼントをあけて、「ほしかったやつだ」と騒いでいるのがおかしい。メッセージカードは家族みんなから。クラッカーを鳴らしてハッピーバースデーをうたった。クラッカーを鳴らしてほしいといったくせに本人は怖がって目をつむって体を背けていた。 

三の隣は五号室

三の隣は五号室

  • 作者:長嶋 有
  • 発売日: 2016/06/08
  • メディア: 単行本
 

ト。

傷心のOLが、秘密を抱えた男が、異国の者が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して…。すべての賃貸物件居住者に捧ぐ、心を優しく揺さぶる群像劇。『アンデル小さな文芸誌』連載を加筆修正。 

変な間取り p1-20  

シンク p21-40  

雨と風邪 p41-59  

目覚めよと来客はいった p61-79  

影 p81-100  

ザ・テレビジョン! p101-124  

1は0より寂しい数字 p125-143  

いろんな噓 p145-166  

メドレー p167-200  

簡単に懐かしい p201-220

電化製品列伝に続いて長嶋有。家電のことが出てくるたびアンテナが立ってしまう。世界の広がり。東京ではじめて住んだアパートをグーグルマップで調べてみたら、まだそこにあった。数年後、同じアパートの隣の棟に同じころに住んでいた人と知り合いになり、その人の友達とゆくゆく結婚することになるのだった。駅前でバイトしていたちっとも客の来ない料理屋はストリートビューで見る限り2009年にはなくなって焼き鳥屋になっていた。当時売れないモデルでアルバイトを掛け持ちしていたえみさんは野菜ソムリエになっていたがそのあとの行方はわからなかった。

電化製品列伝

七夕の翌朝に初蝉を聞く。週明けからげんちゃんの慣らし保育が始まった。ほとんど泣いて過ごしているらしく、お迎えにいくと頬に涙のあとがついていて、こちらの顔を見るとほっとするのかもう一度泣き出す。80分の間に、ロイヤルホストにいってモーニングをとったりする。フライエッグとトーストのモーニングとパンケーキのモーニング、コーンのポタージュモーニング(コーンポタージュのモーニングではない)を、一度ずつ、食べた。フライエッグのモーニングは目玉焼きがふたつ。ドリンクバーでバンホーテンのココアが飲み放題で、貴族の気分で啜る。造花の赤とピンクの薔薇が白い花瓶に生けられているのをときどき眺めながら丸谷才一を読む。窓の外はずっと雨でぐずついている。 梅雨寒でまとわりつくような湿気。

七夕はふーちゃんの五歳の誕生日だった。お祝いはのんびりと週末にやることにして、朝、起きぬけにおめでとうを伝え、夕飯はリクエストのオムライスをこんもりと盛りつけた。

電化製品列伝

電化製品列伝

  • 作者:長嶋 有
  • 発売日: 2008/11/05
  • メディア: 単行本
 

 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000184804 

ブで99円。 

博士の愛した数式」のアイロン、「日曜日たち」のリモコン…。小説家である著者が、現代文学で描かれる電化製品を熱く語り尽くす! 「オール電化」な“異色”書評、映画評18篇を収録。    

川上弘美センセイの鞄』の電池 

伊藤たかみ『ミカ!』のホットプレート

吉田修一『日曜日たち』のリモコン 

柴崎友香『フルタイムライフ』のシュレッダー

福永信「アクロバット前夜」のマグライト 

尾辻克彦「肌ざわり」のブラウン管テレビ

映画『哀しい気分でジョーク』のレーザーディスク 

吉本ばなな「キッチン」のジューサー

生田紗代「雲をつくる」の加湿器 

アーヴィン・ウェルシュトレインスポッティング』の電気毛布

小川洋子博士の愛した数式』のアイロン 

干刈あがた『ゆっくり東京女子マラソン』のグローランプ

高野文子「奥村さんのお茄子」の「オクムラ電機店 

栗田有起「しろとりどり」のズボンプレッサー

映画『グレゴリーズガール』の電動歯ブラシ 

花輪和一刑務所の中』の電気カミソリ

長嶋有「猛スピードで母は」の炊飯ジャー 

 長嶋有の目を通じて読む小説のワンシーンたち。色つきのフィルムを通してみる世界のようで全部読みたくなった。

雨が続く。梅雨どきは全身これデリケートゾーンとなり、夜中に目が覚めるとむずむずして寝つけない。うとうとしたところでげんちゃんが泣き出す。 

紫陽花や枇杷に気をとられていたら、いつのまにか庭に百日紅の花が落ちている。百日紅、毎年咲くタイミングを見逃してしまう。百日紅だけが鮮やかになると盛夏だなと思う。ブルーベリーが少し色づいてきた。 

七月になって、せいちゃんとふくちゃんに味噌汁の作り方を教えた。今朝はふくちゃんが玉ねぎと豆腐で作った。土井善晴が「みそ汁なんて、濃くても薄くても、温かくても冷めてても、みんなおいしい」「みそ汁は、どんな具材を入れてもおいしくなる」というので、そらそうだと思って、好きなように作らせている。おいしいおいしいと啜る。料理をすることは既に愛している。食べることは既に愛されている。  

某

  • 作者:川上 弘美
  • 発売日: 2019/09/12
  • メディア: 単行本
 

 

https://www.gentosha.co.jp/book/b12627.html 

ト。 

名前も記憶もお金も持たない某は、丹羽ハルカ(16歳)に擬態することに決めた。変遷し続ける<誰でもない者>はついに仲間に出会う。愛と未来をめぐる長編。『小説幻冬』連載に加筆・修正。  

 「100万回生きた猫」を思った。生きないと死ねない。愛すること、犠牲を払うこと。川上弘美の「あわい」の話。 

マリが山田に用意する朝ごはんがなんだかいい。 

起きだして、気が向くと、山田のためにパンをトーストする。目玉焼きもつくる。レタスをちぎって、ドレッシングをかける。バナナも、食卓にのせてみる。インスタントコーヒーをお湯で溶く。 

そうだった、料理をすることは既に愛しているんだった。 

バカ姉弟

一年のうちで一番遅い夕暮れが29日で、日の入り時刻は07:01:56だった。ここから秒刻みでじわじわと日の入りは遅くなる。たわわに実っていた枇杷の木に、オナガやむくどりが大挙してにぎわっているなと思ったら、あっという間に食べつくされていた。門のわきに残骸の種がたくさん落ちている。週末に実家から届いた山田菓子舗の氷室饅頭をみんなで食べた。夏のはじまりの終わり。げんちゃんは、明け方までねむってみたり、夜中に何度も起きたりを繰り返しながら、なんとかやっている。薄い髪の毛が伸びて、落ち武者みたいだ。

バカ姉弟

https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000000226

ブ。

豊島区は巣鴨に住む、ある可愛らしい姉弟のお話。姉・おねいと弟・純一郎は、推定3歳の双子の姉弟。ご両親は留守がちなので、お母さんの友だちや、ご近所のみんなに育てられているみたい。彼らの周りでは、時間は黄河のようにゆったり進む。そして姉弟は、今日もきっとどこか予想もつかないところで遊んでいるはず! 読めば読むほど味わい深い、オールカラーコミック!!
ふたりは3歳(推定)。けがれなき子ら。みんなに好かれて今日も行く。読めば読むほど味わい深い、見れば見るほどかわいい。読者の皆様の支持を受け、ようやく1冊にまとまったね。オールカラーコミック26話&描き下ろしイラスト多数収録。 

 バカ姉弟の尊さよ。こんなふうに生きられたらなあと仮定法で思う。

古くてあたらしい仕事

商店街を一本入ったところに、戦後の闇市のような風情を残したちょっといかがわしい雰囲気の八百屋がある。働いている人も少しだけはみ出た感じがして、お釣りをもらうときに手と手が触れるとなんだかどきっとする。その八百屋に、とんでもない値段の野菜が売っているときがある。先週は熊本産のミニトマトが箱で216円。袋に詰めてもらい家に持ち帰って数えたら283個あった。熟しきってはじけているのもいくつか混じっている。冷蔵庫でつめたくして、夕飯の支度をしながらぽいぽい口に放り込んで食べる。ひとつ1円もしない。味は、いかがわしいことはなくて、ふつうに赤いトマトの味がする。 

料理番組を録画してみるのが楽しみ。「おかずのクッキング」フレッシュトマトとひき肉のスパゲッティの回では、土井善晴ゴッドファーザーを語るので前のめりになってしまった。フライパンの中のトマトに砂糖をふりかけて「料理は男のたしなみだ」とアル・パチーノの台詞で決める。あまりに素敵で巻き戻して二回見た。と思ったら、今度はノンストップのワリカツ飯で、ずんの飯尾もゴッドファーザーの話をする。アンディ・ガルシアソフィア・コッポラがパスタを作るシーン。ゴッドファーザーを見直さないといけないなと思う。とりあえずひき肉とトマトのスパゲッティを作った。もちろん砂糖をふりかけるのを忘れずに。 

 

古くてあたらしい仕事 

  

https://www.shinchosha.co.jp/book/352961/ 

ト。 

転職活動で50社連続不採用、従兄の死をきっかけに33歳でひとり出版社を起業した。編集未経験から手探りの本づくり、苦手な営業をとおして肌で触れた書店の現場。たったひとりで全部やる、小さな仕事だからできること。大量生産・大量消費以前のやりかたを現代に蘇らせる「夏葉社」の10年が伝える、これからの働き方と本の未来。 

はじめに  

だれかのための仕事 

仕事がしたい/風で揺れるカーテン/本と本屋さんが好き/だれかのために/お金という物差し/一編の詩から/教科書営業の日々/すべては延長線上に/事業計画書/復刊という選択/ひとり出版社の仕事/自分の仕事の場所をつくる/手紙のような本/さよならのあと/海辺の町で 

小さな声のする方へ 

だれでもやれる/職種について/巨大資本から逃れて/大きな声、小さな声/好きな本から学ぶ/本は人のよう/ひとりではできない/あたらしいもの/一冊に本、ひとりの読書/若い人たち/はじめる勇気、待つ勇気/山の上の出来事/本の力、文学の力/人と人のあいだに/忘れられない人 

あとがき 

津村記久子が「たとえ時代に損なわれるようなことがあったとしても、自分たちは誠実であることができるし、地道な努力を重ねながら、やりたいことだってできるということを、この本は信頼させてくれるはずだ。」と言っている通り、やりたいことで生きることをあきらめなくていいと教えてくれる一冊。 いつか「山の上の家」にも行ってみたいと思う。