まみ めも

つむじまがりといわれます

タンタルス

タンタルス―内田百けん集成〈11〉 ちくま文庫
ちくま文庫内田百間集成は全24冊あって、それをときどき1冊ずつ買い足すのがひそかな愉しみでだったりする。本当は全部読んでしまいたいけれど、愉しみがなくなると勿体ないので少しずつ、買い足す。実際、百間先生の文章はとりとめなく飄々として、内容があるようなないような、そんな具合なので、全部読みきってしまっても、また最初から読み直せばよいし、たぶん何度読んだってわたしは好きに決まっているのだけれど、小市民なのでそういう思い切ったことができないでいる。いつか、お金持ちになったら、百間先生の全集がほしいなあ。これだって、ネットオークションで全部そろって2〜3万円なので、ちょっと思い切れば買えるものなのだけれど、やっぱり小市民なので思い切れないまんま。
タンタルスというのは、飢渇の亡者だと本文中にあって、不死の肉体を持っているのだけれども、神様たちの怒りをかってしまったために永遠に飢えと渇きにさいなまれたギリシア神話の王様だという。それで、麦酒をたいそう愛した百間先生は、ご自身をタンタルスになぞらえていた模様。この随筆集では、お酒以外にも、船、飛行機に関するエピソードが集められている。先生、どのエピソードでも独特の理論を展開して、たとえば、

牛肉がいけないと云われたが、考えて見ると、牛は冬の間は藁しか食っていない。牛の本質は藁である。藁を牛の体内に入れて蒸すと牛肉になる。藁が腎臓に悪いと云うのは可笑しい。医師の命令に背いて牛肉を食うと云う事は、気がさすから、牛肉のすき焼の事を、うちでは藁鍋と云う事にきめると云う事を家人に申し渡して、私は此頃頻りに藁を食っている。

なんていう屁理屈を、気持ちよいほど堂々とこねまくっている。このくそじじいっぷりがたまらない。
かくいうわたしも、妊娠がわかる前日までは猛然たるタンタルスで、とくに、妊娠検査薬を使うまえの一週間たるや、赤ワインをひとりでがぶ飲みしたり、会社の飲み会で飲み放題をふたつこなし、また仕事のあとで池袋くんだりまでくりだして飲み放題のあとでバーに梯子してカクテルをやったり、それはそれは飲み漁った日々だった。もともとお酒は大好きだけれど、ふだんは家でグリーンラベルを1〜2本空けるぐらいのおしとやかなもので、めったに飲み会にも出ないし、赤ワインもカクテルもやらない。しかも、この当時は翌朝はすっきり、ちょっともお酒が残らず、自分でもハテナと思ったぐらいだった。妊娠検査薬前夜に珍しく飲んだカクテル、そのカクテルが、ダイナマイトキッドとかいう名前で、たしか少々つよいお酒だったようなと調べてみたら、アルコール度数60%の代物だというので、いま自分で驚いたところ。ダイナマイトなキッドかどうか、知らないけれど、おなかのあかちゃんは、健診のたんびに頭がでかいと言われ続けていて、本当に頭でっかちだったらば、先生にあやかって(わたしの中で、百間先生は頭でっかちの印象なので)、ヒャッケンでもエイゾウでも名前にいただこうかと内心考えたりしていたところが、ここに来て、そうそう大きくもないということなので、おそらくどちらにもならないとおもう。