まみ めも

つむじまがりといわれます

白い人・黄色い人

白い人・黄色い人 (新潮文庫)
急に秋めいて、うろこ雲をみつける日が増えた。あったかいココアを牛乳で作って飲むのがうれしい。今秋はじめてウールに袖を通すときのほっこりした気持ち。でかけるときは二階の窓をうっすらすいて空気をこもらないようにするが、帰宅して二階にあがると金木犀のにおいが遊歩道から立ち込めてむせ返るようになっている。一体に、においなんてものは、追いかければするすると逃げてゆく、刹那的にふっと掠めるのがよいのであって、逃げ場を失ったにおいがむんむんするのはちょっといただけない。折から悪阻で夕方になると疲れで気分が悪くなるのだから、帰ってから金木犀のにおいにやられてえづくこともあった。
先週末は皮膚科にでかけた。もうふた月ばかり前から下瞼がかさかさと赤く乾燥し、ぺりぺりと剥けてひりひりするというのを繰り返しており、わたしはというと肌の状態に頓着する人間ではないものだからたいして気にしていなかったが、周りがやたらと心配するのでそのうちに心配がうつってきて、でかけることにした。駅の近くの雑居ビルの二階にちいさな医院があり、待合室はせまく患者で溢れかえって、階段の踊り場にあるパイプ椅子にかけて本を読んで時間を潰した。そこで遠藤周作を読み終えてヘミングウェイを読んでいたら二時間ほどしてやっと順番が巡ってきて、しかし、お医者はわたしの下瞼をよく視診もせずに保湿剤とビタミン剤を処方してお終いなので、なんだか割り切れないおもいがした。保湿剤ならまえから塗っておると食い下がったがもっと塗れといわれてしまった。帰宅して処方をみたらヒルドイドという目や粘膜や傷口には塗ってはならんクリームが出ており、塗るとやはりひりひりするし、目に入らんようにしても若干滲みるようで、ますます気に入らない。それにしても、雑居ビルにぎゅうぎゅうでかたい椅子に腰掛けて白い人黄色い人を読んでいたら、やたら閉塞的な気持ちにさせられた。自分のなかの残酷冷血な部分、無関心無感動な部分、こころの隅っこにある気づきたくないものをひろげて見せられるような内容なのでぶっちゃけ疲れた。尻もだいぶ痛くなった。家に帰って保湿剤を塗ろうと鏡をのぞいたら紛れなく黄色い顔があった。