生まれてこのかたおおきな病気や怪我もなく、出産するまでは入院というものもやったことがなかった。ところが妊娠と出産を機にからだというのはこんなに変わるものかとおどろくドラマティックさで勝手がちがってしまった。セイちゃんを妊娠してすぐのころに左脚の付け根が痛みだし、蒲団から起き上がるときに腰の骨がまとまらないというのか、力がちっともはいらず立ちあがれない。その痛みは妊娠の間じゅう続き、産後も三ヶ月ばかり腰がくだけたままでどうなることだろうと気が遠くなった。産後は気分も浮き沈みし、そのうちやたらと汗をかき動悸と肌の掻痒感にねむれなくなり、病院でしらべたら産後甲状腺炎と診断され、結局もともと甲状腺機能低下の持病があるとのことで通院しチラーヂンを飲み続ける羽目になった。腱鞘炎になる、乳首はきれる、歯が欠ける、いろんなことが起こり、こどもをうむってのは大変なもんだなあと思っていたらフクちゃんを妊娠し、今度は悪阻に断乳、セイちゃんの入院も重なり、そうこうするうちにまた脚の付け根が痛み出すのだった。いまは、そろそろ甲状腺炎の動悸がはじまるのではとどきどきして眠れなくなったりし、このどきどきして眠れないのはまさかと思うそばから寝てしまうんだから、よくわからない。
- 作者: 横尾忠則
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/04
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