字の練習は細々と続けているが、漢字に手をだしたころから追いつかなくなって、あまりうまい字が書けない。字には芯みたいなものがあって、要はバランスなのだと思うが、芯をとらえた字を書くというのはなかなか難しい。字の芯をつかまえたら、次は文字列全体の芯をつかまえなければならん。木だけ上手に書いても森は上手に書けなかったりする。そういえば、わたしの知る人で字のうまい人というのは、たいてい運動神経も優れていて、結局は肉体のバランス感覚に尽きるのかもしれず、逆上がりのできないわたしには限界があるような気もする。それでも少しまともな字を書けることがうれしく、実家に帰っているうちは、浦和の宿六に、わざわざ紙に書いた文字をカメラで撮ってメールするというのをやっていた。人前に字を見せるシーンはしばらくないだろうと思っていたら、友人がおとうさんを亡くしていたのを知り、香典袋に名前を書いたが結局まずい字しか書けなかった。うまい字が書けたところで喪失はどうにもならんのだけれど、こんなときにぴんとした字を書けないのはなんとも頼りなく、申し訳ない気分だった。友人は、広い仏間でぽろぽろと涙をこぼし、わたしは数珠をいじりながら、なにもことばが出ない。
- 作者: いしいしんじ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/11
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四国を舞台にした短編集で、川本三郎が、
と書いている、阿波池田の駅がでてきてテンションがあがった。いつか土讃線に乗りたい。日曜に乗った東武野田線は、春日部駅を過ぎたところで、住宅地のなかの土手を走り、軒並みのむこうをいく電車がみえ、そのうち立体で交差するのが愉快だった。沿線の桜はちょうど散り際。