まみ めも

つむじまがりといわれます

深沢七郎集 第七巻 エッセイ

仕事の帰りに保育園でこどもたちをピックアップし、西日にじりじり照らされながら家路。玄関の扉をセイちゃんにあけてもらって、セイちゃんのうしろからベビーカーを滑り込ませ、後ろ手で扉をしめるが、二日にいっぺんくらいは蚊がまぎれこんで(セイちゃんは、「カガがいる!」という)汗と血のにじむ死闘が繰り広げられたりする。部屋にはいったら、自分のかばんとふたつの通園かばんを所定の位置におろし、エアコンをいれてフクちゃんをベビーカーからおろしてやる。床に座らせるや否やで甘ったれて泣くので、間髪いれずにテレビをつけてやり、録画でおかあさんといっしょを見ることになっている。すこし黙っているあいだにちいさなカップにレーズンを五つぶずついれて、渡してやると、おとなしくつまんでいるので、その隙に二階にあがり窓を開け放ちベランダの洗濯をとりこむ。したにおりて、フクちゃんに乳をくれたり、セイちゃんによじのぼられたり、どうかするとふたりして左右の足にへばりついて、それをなだめながらフライパンでおかずを作ったりする。
しかしこないだの木曜だけは、おかあさんといっしょの再生を待ってもらって、米をとぎ、炊飯器を予約、洗濯をとりこんでからわたしも一緒にテレビのまえに陣取る。体操のおにいさんとおねえさんが大嶽部屋にいくという情報を聞き及んで、ひと月も前から予定にいれておいた。セイちゃんにはなにも言わず、どんな反応をみせるかと思ったら、大好きなおかいつに大好きなおすもうさんが現れたことでメーターが振り切れてしまって口を半開きして呆然としている。おもしろいので舐めるように左右上下からシャッターを切って写真を撮りまくったが、眼中にないのかテレビから目をはなさなかった。夜、家族四人でおすもうさんの真似をして、前後につらなってすり足をした。フクちゃんも、いつのまにやらハクホーとおすもうさんを呼ぶようになり(ちなみにおかあちゃんは呼べない)、ハックハック(はっけよい)と声をだして仕切りの体勢からとびこんでくる。ふたりを転がして汗だく。でも、いくつまでおかあちゃんと相撲とってくれるだろう。

深沢七郎集〈第7巻〉

深沢七郎集〈第7巻〉

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年の終わりに
日録
この機会に
千曲川
子供を二人も持つ奴は悪い奴だと思う
お歳暮と年賀
非行も行いの一つだと思う
色即是空
悪魔だ、熱病だ!
ヒチローの全集のエッセイの部を図書館で借りた。

私は自分の好きな情景を書いてみたいだけだ。絵が下手だから、せめて、景色を、絵のように書いて、それがたのしいことなのだ。

ことばのスケッチ、なんだかいいなあ、わたしは、こうやって毎日を記すことでどんどんこぼしていく日常を少しでも留めておきたいと思っているので、ヒチローの言いたいことがわかるような気がする。小説に思想なんかいらないというのも、ヒチローを読んだらとことんおもしろいから、それでいいのだという感じをさせる。子供を二人ももつので、わたしは悪い奴で、たしかに、こどもを欲しいというのは随分エゴイスチックなもんだなあ、ホルモンのせいかなあと思いながら、うんで、いとしくて、憎らしくて、ときに修羅のようになって落ち込んだり、母親なんてとんでもない生き物だけれど、ヒチローが、母が死んだときにはじめて解放された、とほっとしているのを見て、ちょっと死ぬのがたのしみになった。ヒチローみたいに、生まれてきて損しちゃった、なんてズバリいわれたら、さすがに落ち込むけど、そうはいいながら、ヒチローは随分たのしそうにしているし、もう取り返しもつかんことなので、それなりにおもしろおかしくやってくれればいいと思う。
あしたから下田。