下田でフクちゃんの食がすすまず、慣れないアウェー環境によるものかと思いきや、みるみるうちにぷつぷつと発疹がひろがり、どうやら巷で大流行の手足口病をやらかした模様。二年前の夏休みは、鎌倉についた初日にセイちゃんが熱発し、やっぱり手足口病だったので、あのときは二日ほど水も飯もゼリーの類も喉を通さず、乳とデラウエアだけでしのいで夜は愚図りまくったのだったが、フクちゃんのは軽症だったのか、気づいたときにはひどいところは通り過ぎつつあった。それでも、宿で朝の四時すぎに目を覚まして延々二時間ほど身をよじって号泣するので、くたびれてしまった。六時ごろようやく寝てくれるのだが、空は明るく、くたびれながらも目が冴えてしまい、カーテンの隙間から漏れる朝陽で本をぺらぺらと読んだが、ぼんやりしてあんまり頭に入らない。わたしも喉がすこし痛く、そのうち脛のあたりとお尻と顔ににきびのような発疹がいくつかでて、どうやら手足口病のおこぼれに預かった。セイちゃんと宿六がプールで遊んでいるのを、プールサイドで風にあたりながら眺めて、昼めしのあとは昼寝、眼下の砂浜ではパラソルが乱立し、遠い歓声が時折きこえ、旅先の無為な時間が暑さにくたびれた体に心地よい。冷たい缶コーヒーを自販機で買ってきて、くぴりくぴり飲みながら、やっぱり本を読んで過ごした。わたしは、レジャーといっても結局本を読むばっかりだ。
- 作者: 小島政二郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1987/05
- メディア: 文庫
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全身が蕩けるように快く、坐ったまま体が香りのいい大気の中にフワッと浮かんでいるようだった。坐っていることがいい気持なのだ。体なんかなくなってしまって、快感だけが残っていた。
寝そべりたくもない、ただ座ってたい心地らしい。ときどき、体の具合とお酒とまわりの空気がぴたーっとうまくいくと、こんなような調子になるようなことはあって、前に、実家から送ってきたコニャックを飲んだときは、本当においしかった。もう十年近く前になるかもしれず、そう思うと、あんなふうに最高においしいお酒を飲むことは、この先なん回あるだろう。でも、翌日みじめにしっぺ返しを受けるようなお酒だって、過ぎてしまえば懐かしいもんであって、恋と酒に関しては、どんなに辛い思いをしても忘れてしまうもんだなあと思っていたが、このたび出産のくるしみも忘れつつあるので、出産も付け加えておく。