秋に対する感受性は高いとみえて、朝夕の肌寒、往来の金木犀の成分よりも先立って、鼻腔がむずむずしてくしゃみが止まらない。暮れていく秋空にセンチメンタルをもよおすそばからヘクショイヘクショイやるので、センチメンタルも威勢良く霧散していく。チョコレートは年じゅう好きだけれど、秋のチョコレートは格別おいしい。チョコレートをつまんで、熱いコーヒーを啜るときのなんともいえない気持ち。女がチョコレートを食べると恋するときの脳内麻薬が出るとかいう話だが、恋は往々にして裏切るけれど、チョコレートは裏切らないのだからえらい。
- 作者: 幸田文
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/09
- メディア: 単行本
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こないだフクちゃんの病院で休みをとった日に、フクちゃんを保育園に送り、街へ出てデパートで洋服を一枚買って、いつもの駅前のドーナツショップでドーナツとコーヒー、山下達郎を聴きながら本を読んだが、読み切ってしまい、手持ち無沙汰になりブックオフへ。毎度ながら定型のお休みにすっぽり嵌る。久しぶりのブックオフを堪能し、十二冊も買った。
台所のおと 幸田文
男の手料理 池田満寿夫
温泉旅行記 嵐山光三郎
貧乏サヴァラン 森茉莉
スリはする どこでする 岸田今日子
ここはどこ 岸田今日子/吉行和子/冨士真奈美
癌め 江國滋
南蛮阿房列車 阿川弘之
女王陛下の阿房船 阿川弘之
酔生夢死か、起死回生か。 北杜夫/阿川弘之
ショージ君の旅行鞄 東海林さだお
街のはなし 吉村昭
全部105円。どうも旅と食と和田誠のイラストに弱いのだな、と買ってきた本を積み上げて思う。
幸田文の文章を読むと、これだけ感受性がつよいと、生きていて大変だろうなといらん心配をしてしまう。台所のものおとに、いちいち細かく神経をはたらかされたら、こっちだってたまったもんじゃない。わたしは根ががさつに出来ているのだから、過敏な幸田文がきいたら発狂するようなノイズを出しているに違いない。といいながら、わたしも実家にいたころは、階下の台所からきこえる炊事の音、洗面所でまわる洗濯機のうねりに、耳をそばだてていたので、思い返してみると、わたしが机にむかうあいだ、布団にもぐったあと、くまなく母親は動きまわっていたのだなと気がつく。あのころ毎日きいていたあの音は、無条件の安らぎを与えてくれるBGMだった。わたしももう少しまるい音をたてないと、こどもがぐれるかもしれないな。