そのうえ痔になった。産後のからだのしんどさはなかなかのもので、こどもの見送りで庭先のアスファルトのうえを歩くだけで足腰が重くなり傷口がしくしくし出す。予定日を過ぎても吐いたのはやっぱりつわりだったようで、うまれた途端になんでもいくらでも食べられるようになり、たまりにたまった食い意地があらゆるうっぷんを晴らさんばかりにさく裂している。きょうはひつまぶしをおかわりして饅頭を食べた。
うまれて7日めの夜に名前がきまった。「ふみ」にきまったよ、とこどもたちに伝えると、セイちゃんがノートの切れ端に「せいぞう」「ふくぞう」「ふみ」とならべて書いて、あとから「ふみ」のうしろに「ゃちん」とつけたした。「ゃ」を消しゴムで消して、ちとんの間に書き直して、ふみちゃんの出来上がり。フクちゃんも、あかちゃんのお名前を書きたいといって、おかあさんと一緒に鉛筆を握って「ふみ」と書いた。これまであかちゃんのitだった子が固有名詞をもって、すこし輪郭がはっきりするようで、うれしくなって何度も名前を呼んで輪郭をなぞる。
- 作者: エーリッヒケストナー,滝平加根,山口四郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/09/18
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ぼくはあのばかげた客車の中に住んで、まったく満足しているんだ。春になればまた花がさくし、たいした金もぼくはいらない。ぼくのすごしたこの数年を、きみはむだな時と考えているが、読書と思索に、これほどゆたかな時間を持ったことは、ぼくはいままでにないのだ。あのときぼくがあじわった不幸には、それなりの意味がちゃんとあったのさ。ぼくみたいな変わり者も、すこしはいなくちゃいけないのだよ。