まみ めも

つむじまがりといわれます

逃避めし

この間ふーたんをおぶってスーパーにいったら、知らんおばあさんにふいに話しかけられた。あら、女の子?から始まり、わたしは5人姉妹で、そうかと思ったらこどもは息子がふたり、孫もみんな男の子で、女の子は抱っこできなかった、おとうさんは今年80だったのに、79で亡くなった、孫が、はげたおじいさんとどうして結婚したんだというから、おじいさんも若い頃は髪がふさふさにあって、お店で働いていたときには男衆のなかでも一番の色男だったんだよって話すんだけど、信じなくてねえ、といって、手提げから取り出したモノクロームの写真には、和服の男女がならんでうつっており、ほら、おじいさん髪の毛真っ黒でしょう、これ、あたし、地毛で島田に結ったのよ、それでね、こっちは70年前、といって、5人姉妹のうち4人までがうつった家族写真をまた手提げから出してきて、これが長女でしょう、次女に三女で、これがあたし、5人目はまだ生まれてないの、おかあさんは真夏でも太鼓帯をきちんきちんと締めてね、父親には、お前もこんなふうにちゃんと帯を締めて着物を着るんだぞっていわれたのよ、というおばあさんは商店街の洋品店で買ったに違いないくすんだニットの首回りが伸びてシミだらけになっているのだった。手提げにはパッと見で何十枚も写真がおさまっていそうな気配で、いつやむともしれない自分史語りに恐れをなし、すみませんすみませんと断ってその場を離れた。おばあさんは、あら、買い物わすれちゃった、といっていそいそと歩いていった。

逃避めし

逃避めし

予約しておいたト本。

シメキリ迫る非常時に、なぜか創作料理を作ってしまう。そんな逃避の日々を綴る。描き下ろしイラスト、「めしまんが」も収録。『ほぼ日刊イトイ新聞』連載を加筆修正し、再編集して書籍化。

「仕事に遅れるかもしれない、担当編集者に申しわけない。そう思う気持ちこそが、なによりのスパイスだ」と語る吉田戦車による逃避めしの数々。白眉は魚肉ソーセージに小麦粉卵パン粉の衣をつけて揚げたギョソカツ。そのままかぶりつけるギョニソにそこまでやるところに、そんなことをやっている場合ではないだろうという逃避感がありあり。「ちくわの穴確認弁当」で「ちくわやドーナツなどの穴食品は、穴も味のうち。穴にもなんらかのスピリチュアルな栄養素がある」といっていて、スピリチュアルな穴を久しぶりに食べたくなった。