まみ めも

つむじまがりといわれます

めぐる季節の話

木枯しが吹いてます、とおかあさんに連絡をいれる。返事はこない。木枯しは、北陸の冬にはなかった。北陸の冬にあるのはどんより暗い空と雪雷とわすれたころにちょっとの晴れ間。こちらでは晴れの分量が多いのに、北陸育ちで身についてしまった晴れ間を惜しむ感じを抜け出せなくてきょうも布団を干してしまった。仕事がやすみのあいだのよろこびは、平日に布団を干せることと、郵便局にいけること。郵便局で小包を出すついでにミッフィーぐりとぐらの切手を買った。便りを出す宛てもないし、ワリカツの飯尾さん宛てにファンレターを書こうかな。学校の帰り道でせいちゃんがうすい桃色の菊の花を摘んできたので、新グロモントの空き瓶にいれた。片付かない部屋によく似合う。ドライアイ、吹き出物、腰痛、われにあり。

めぐる季節の話 (安房直子コレクション)

めぐる季節の話 (安房直子コレクション)

 

ト。

 「緑のスキップ」「初雪のふる日」「花豆の煮えるまで」など、闇から光への幻想11編と、作品理解の助けになる単行本未収録のエッセイ、巻末に年譜・著作目録を収録。全7巻完結。
小夜にはお母さんがいません。小夜が生まれて、ほんの少しで、お母さんは里に帰ってしまったのです。里というのは、山んばの村です。小夜のお母さんは山んばの娘だったのです。そして、小夜のお母さんは風になってしまったというのです。(『花豆の煮えるまで』より)幻想的なおはなしが11編はいっています。巻末には作品目録、年譜がまとめてあります。

緑のスキップ p9-24

もぐらのほったふかい井戸 p25-44

初雪のふる日 p45-56

エプロンをかけためんどり p57-100

花豆の煮えるまで p103-124

風になって p125-138 

湯の花 p139-154

紅葉の頃 p155-168

小夜と鬼の子 p169-188

大きな朴の木 p189-208 

うさぎ座の夜 p209-230

焼きりんごのこと p232-234

母のいる場所は金色に輝く p235-238

運動ぎらい p238-240

セーラ・クルーに出会った夏 p241-244

八木重吉の詩に出会った頃 p244-246

誕生日のおすし p246-248

はじめてのほほえみ p248-250

子供と読んだたくさんの絵本 p251-253

好きな絵本ふたつ p254-257

編物のたのしみ p258-259

私の人形たちへ p259-260

私の市松人形 p260-264

自分で自分に p265-266

自作についてのおぼえがき p267-272

後戻りできないことはわかっていながら懐かしいおはなしの世界に含まれたくて、安房直子ばかりを読んでしまう。ただ優しいだけではない展開に裏切られたりしながら、でもほうれん草のおひたしのように、淡く甘い汁につかっていられる。

ひとりメシの極意

六日と七日とが、ここらへんではもっとも早い日の入りだった。16:28:11の日没を二回繰り返したあとで秒刻みで夕暮れがのびていく、でも寒さはここからいよいよ深くなるという夕暮れの空に向かって歩く帰り道、冬の入り口に立っているという気持ちがする。遊歩道にはいちょうの葉がふかふかに散りつもり、ばんざいで寝るちいさな手のひらが布団からはみ出て驚くほど冷たくて、夜中に目が覚めるたびにその手のひらをにぎって温め、ふとんのなかにしまっている。

父を亡くしたことを知ったTちゃんがおいしい焼き菓子を送ってくれたのがありがたくて、たまらない気持ちでじっとしておられず、金曜は粉を買い込んでスコーンを焼いた。きなこ味、ココチョコ味、カレー&コーン味をそれぞれちいさく型抜きしまくってオーブンで焼き、粗熱がとれたのを袋詰めしてみっつの小包みにした。産後におかずを送ってくれたお礼ができないままになっていたKちゃん、やっぱりおとうさんを認知症でなくしたばかりのAちゃんにも送る。なにかを送りたい人がいるのは、いいことだな。

ひとりメシの極意 (朝日新書)

ひとりメシの極意 (朝日新書)

 

 ト。

ひとりの食事が心底楽しめれば、
人生最大の課題「孤独」もなんのその。
東海林さだお先生、初の新書で
その極意がついに明らかに――。

究極の卵かけゴハンに何度トライしたか。
定食屋のサバ味噌煮を何度採点してきたか。
立ち食いそばで、駅弁屋で、ビアホールで、
「あっちにすればよかった…」と何度悶えてきたか。
おもえばショージさんこそは、半世紀も前から
この国ナンバーワンの「ひとりメシ」の達人。
タハハ、フフフと笑ううちに、人生を楽しむ
最大の極意がなんとなく、しかし深く、わかる。

週刊朝日超長期連載の「丸かじり」をベースに、
「ひとり酒の達人」太田和彦との特別対談も収録。


特別対談【前編】メシも、酒も、ひとりが一番!
東海林さだお太田和彦
・孤高をきわめたければ居酒屋に行け
・盛り合わせを頼むのはいさぎよしとしない
・「みんなが俺をどう見てるか」問題
・「フランス人的な個人主義」「みんな憧れてはいるんですよ」
・殿さまなら「おつりはいらんよ」と

【第1章】 冒険編 いちばん手っ取り早くできる冒険が「食」だ
・丼一杯おかず無し?
・バター醤油かけごはん讃
・中華カレーマンを自作する
・復讐の蕎麦入りうどん
・シラスおろしの法則
・焼きそばにちょい足し
・オイルサーディン丼完成す
・帝国ホテルでバーガーを

【第2章】 孤独編 いじけても、ひがんでも、うまいものはうまい
・独酌決行
・午後の定食屋
・小鍋立て論
・一人生ビール
・「秋刀魚の歌」のさんまは
・魚肉ソーセージは改善すべきか
・いじけ酒
・行って楽しむ行楽弁当

【第3章】 探求編 小さいことにこだわらずに、大きいことはできない!
・ゆで卵は塩?
・オムライスの騒ぎ
・釜めし家一家離散
・カキフライに関する考察
雪見酒の法則
・茶碗蒸しの正しい食べ方
・グリンピース、コロコロ
・盆栽と料理サンプル

特別対談【後編】定食屋は風流です!
東海林さだお太田和彦
・さば味噌煮を味わえる定食屋は高級な世界のような……
高倉健には、なんといってもカツ丼がよく似合う
・「向かいの人と目が合う」「視線の交錯問題は大変です」
・六畳一間のころから仕事場と家は別
・「生活が乱れていたほうがいいんじゃないかと」「無頼派……」

【第4章】 煩悶編 「メニュー選びにクヨクヨ」は、至福の時間
・カレージルが足りないッ
・とナルト、ナルトは
・おにぎりの憂鬱
・エビ様と私
・カツカレーの正しい食べ方
・ラーメン屋観察記
・海鮮丼の悲劇
・失敗する食事

【第5章】 郷愁編 懐かしいもの、ヘンなもの大集合
・ちらし寿司の春
・さつま芋二本弁当
・懐かしの海苔だけ海苔弁
・え? シャリアピンステーキ?
・ワカメの役柄
・懐かしの喫茶店

【第6章】 快楽編 ああ! あれも、これも、ソレも食いたい!
・礼讃、生卵かけごはん
・アー、大根千六本の味噌汁
・水炊き、たまらんがや
・豆腐丸ごと一丁丼
・煮っころがしの夜
・山菜の喜び
・納豆は納豆日和に
カラスミを作ろう
・脂身食いたい
・目玉焼きかけご飯

東海林さだおを通して見る食の世界の鮮やかさよ。もう、絶対にこの冬は肉まんとカレーパンを買ってきて移植手術をやりたいし、温かいフワフワを口に頬張って三秒その感触をじっと感じるというのを断然やらねばならぬ。やるもんね。

つきよに

浦和に戻ってから疲れが出て家族が順々に体調を崩し、なんとなくこちらまでぼうっとしてやわらかいうどんばかり啜っている。一度だけ、おとうさんが夢に出てきた。その日は昼間から眠くてねむくて、夜、ベッドでうとうととしたときに、寝床に並べて敷いた布団におとうさんがいて、みんながいて、おいでといわれて布団に潜り込んで、そのときに、あっおとうさん死んだんだとひらめいた一瞬で、目が覚めてしまった。おとうさん、若いときの元気な姿だった。そのまま暗がりでたらたら泣いた。おかあさんは、おとうさんに死んだら幽霊になって出てきてくれと頼んであるというのに、まだ出ないと嘆いている。夢のなかのおとうさんに伝えてあげたらよかった。

亡くなる前日は、すこしだけ加減がよかったらしい。まぶたを閉じられなくなって乾燥しないように目薬や軟膏をしているのに、涙がにじんでいて、どうしたのときくと、家族が気がかりで泣いているといったらしい。スピッツの歌を一緒にきいたといっていた。

週末、近くの公園の中の美術館のミュージアムショップでイヌワシのブローチを買った。繊細にかたどられたアクリルの透明に鮮やかな彩色がされて、おはなしがはじまりそう。早川鉄兵という切り絵作家の作品。

つきよに [教科書にでてくる日本の名作童話(第1期)]

つきよに [教科書にでてくる日本の名作童話(第1期)]

 

ト。

つきよに、ねずみの子どもが、ふしぎなものをひろいました。白くて、四角くて、いいにおいのするものでした。ねずみの家のなかは花のにおいでいっぱいになりました。表題作のほか、短編4編を収録。

つきよに p5-8
やさしいたんぽぽ p9-18
青い花 p19-40
きつねの窓 p41-62
ひぐれのお客 p63-85

安房直子のおはなしに、南塚直子の絵。ふたりの直子の世界がとにかくゆかしくて、世界のことを何にも知らないゆりかごのころに帰ってゆくようだ。

うさぎ屋のひみつ

おとうさんが死んだ翌朝は、小春日和のさわやかな朝陽が白山のシルエットを作っていた。角のコンビニでダブルソフトとバターロール、お茶と牛乳とヨーグルトを買い込んで、朝ごはん。朝風呂に浸かり、ふとんを片付け、お客が途切れ途切れにあり、葬儀の打ち合わせ。お昼をまたコンビニで買って済ませ、遺影の写真を選び、挨拶文を作り、古い写真を眺める。おとうさんとおかあさんが、新婚旅行に出る前に駅で写した写真が出てきた。卒業のラストシーンのバスのふたりのような頼りなさげな表情で佇んでいる。それと、古い日記。小学生のころのものと、大学生のころのもの。赤とんぼや、家の中に迷い込んできた虫、枕元の仏花の白い中にひとつだけひらいたピンク色、おとうさんがいるのだなと思うことにする。内輪通夜があり、おやつを食べ、夜はお弁当。

お通夜。打ち合わせをし、奈々ずしでお昼。お葬式を予定していなかったので、しまむらユニクロで買ってきてもらう。四時に納棺。お兄ちゃんのシャツ、お気に入りだったユニセフのネクタイ、スーツをのせて、妹の口紅を塗ってもらって、すこしお父さんらしくなる。お通夜にはちらほらと懐かしい友だちがきてくれ、一緒にかなしんでくれることがありがたい。弔問客が多く、ロビーに溢れた。通夜ぶるまいをして、夜はおかあさんといもうとと、おとうさんのいなくなった家で寝そべる。

お葬式。冷たい北陸の冬という空になった。斎場に泊まり込みしたこどもたちが描いたおとうさんの顔や手紙を棺にのせてあった。アンチェインド・メロディとオンリー・ユーをエンドレス・リピートで流しておとうさんとさよならをする。張り込んだ祭壇のお花を敷き詰めて、海のそばの火葬場にいく。波が荒い。おとうさんを焼いているあいだ、みんなで軽食。お骨をひろって、お寺さんにいき、お経をあげてもらって、斎場で会食。夜はこどもたちを寝かせたあとでわいわいと香典の清算。お淋し見舞にいただいた両口屋是清の旅まくらがおいしい。

翌朝、昼前にお経をあげてもらい、荷造りをして、お昼はおたふくで久しぶりにまともな食事。こどもたちが玄関先で遊んでいるときに、紅葉したハートの形のはっぱを拾ってきた。遺影と一緒に荷物にいれる。おにいちゃん家族に見送られてかがやきに乗り込む。浦和まで迎えにきてもらい、お友だちが鍋をごちそうしてくれて、おとうさんの話をきいてもらう。おとうさんがいないのだということは、これからしみじみときいてくるのだと思う。スマホが鳴るたび、もう悪いニュースはこないのに、どきっとする。

ふとんからぼくのにおいが消えたときほんとの意味で訪れる死後 /岡野大嗣

いないと感じているうちは、まだいるのかも。

うさぎ屋のひみつ (現代の創作児童文学4)

うさぎ屋のひみつ (現代の創作児童文学4)

 

 ト。

「今夜のおかずは、なににしよう?」と、つぶやく奥さんのところへ、「夕食配達サービスうさぎ屋」がやってきた。料理はとてもおいしくて、やめられない。奥さんは、その秘密を見つけようとする。ほか3編。

うさぎ屋のひみつ p7-38
春の窓 p39-75
星のおはじき p77-92
サフランの物語 p93-127

はじめて読んでも懐かしくて鼻の奥につんとくる。 安房直子を読むと、曲がり角の向こうでおとうさんや懐かしい人に会える気がする。

ド・レミの子守歌

いよいよの局面が波状に押し寄せていたおとうさんだったけれど、こないだ触れた手足のつめたさに本当にいよいよなのだなという気がしたので、こどもたちと帰ることにして、新幹線のなかで食べるおにぎりを作っておやつやジュースと一緒に巾着に詰めたりしていたら、あと少しです、というメッセージがおかあさんからきて、たまらず、家の中でワーワー泣きながらおとうさん、おとうさんと呼んでしまう。一気に冬が来たように冷え込んだ冷たい雨の日で、暖房をいれて、おとうさんが寒くしてないといいなと思う。こどもたちと1650大宮発かがやき511号に乗りこみ、ココアを飲んだり、花のくちづけをなめたりしていたら、おかあさんから連絡が来て、間に合わなかった。新幹線の到着する25分前だった。病院にむかい、つめたくなったおとうさんにおつかれさまを言い、看取ったおかあさんにもおつかれさまをいい、ばたばたと家に帰り、仏壇を運びこんだり、枕経をあげたり、葬式で悶着したり、めまぐるしい葬祭の幕開けだった。おとうさん、ほんとうに死んじゃったなという気持ち。一週間前、またくるねと声をかけて、また会えなかったけれど、これからはいつでも会えると思ってやっていく。

ド・レミの子守歌 (中公文庫)

ド・レミの子守歌 (中公文庫)

 

ブ。2014年に108円で買ったものの再読。

できた! 産まれた! さあ、子育てのはじまり! 平野レミがママになったときのこと、その後の子育てのことを、よろこびも戸惑いもつつみ隠さず、明るく語る。巻末に、和田唱「全てのお母さんに」も収録。

おとうさんのお見舞いにきたときに選んだ文庫本一冊。

まどろむ夜のUFO

いろいろなことに算段をつけないままあわてて新幹線に乗ったので、いつまでもいられず金曜にうちに戻った。木曜、病室にお兄ちゃんも来て、久しぶりに家族がそろった。家族でおとうさんの葬式の話をする。おとうさんは金曜に気管切開の手術を受けた。まぶたを閉じることもできず、眼帯をはって目薬と軟膏をつけている。耳も遠く、かろうじて見えるらしい右目のまえで手を振ってみせると、眼球をふるわせてなんとなく反応がわかる。脈がはやく血圧は低い。それでもタルセバを使う。台所のシンクの脇に庭の柿があって、冷蔵庫に柚子をみつけたので柿柚子をつくった。あたらしい台所では砂糖がみつけられなくてクマノミズキのはちみつで和えた。一日おいて朝ごはんに食べる。クマノミズキのくせのあるにおいと柚子の苦味。おとうさんとときどき口に出して呼ぶ。あんまりナイーブにはなりたくない。

まどろむ夜のUFO

まどろむ夜のUFO

 

ト。

「魂のコミューンみたいのがあるんだよ」異次元の世界に魅かれる若人たちの幸福なコミューンを描く、新鋭女性作家による中篇小説集。表題作のほか「もう一つの扉」「ギャングの夜」を収録。
まどろむ夜のUFO p7-110
もう一つの扉 p111-186
ギャングの夜 p187-211 

本にも没頭できないけれど、読むことで自分をごまかすというか、慰めているところがある。

村上春樹全作品-1990〜2000 [2]-5 ねじまき鳥クロニクル 2

お隣のおじいさんが育てている食用菊の黄色がまぶしい。秋の日の光が斜めにさして、刹那の感じがする。朝の送りで歩く道すがら、天気の良い日はいつも布団を干している家があり、大通りで朝日を浴びている布団を見るといてもたってもいられなくなり、慌てて家に帰って布団をせっせとベランダに運ぶ。雨の多い田舎で育ったので布団を干すことはあまりなく、たまにいい日和があると、屋根に布団を並べてその上に寝そべった。あの屋根ももうすぐ壊されてなくなってしまう。関東にいると晴れが続く秋冬は毎日がスペシャルになってしまい、布団を干して取り込むだけでひと仕事終えた感じになってあとはぼんやり過ごしてしまう。

週明けに父の具合がよろしくなくなり、水曜の午後のチケットを手配してむね肉のから揚げを揚げまくっていたら、今夜が山かもしれないと連絡が来た。から揚げを揚げているときに、ふとなにかが動いた気配がして、おとうさんかなと思ったところだった。そのまますぐ荷造りをしてげんちゃんとふたりで大宮2130のかがやきに乗ってお見舞いにきた。新幹線のなかでは落ち着かずにチョコレートを貪った。肺炎を起こして高熱はありながら手足が冷えてつめたくなっている。息が苦しそう。なんとかとどまってほしい。どうして痛みも苦しみもわけあえないのだろう。

村上春樹全作品 1990~2000 第5巻 ねじまき鳥クロニクル(2)

村上春樹全作品 1990~2000 第5巻 ねじまき鳥クロニクル(2)

 

ト。

村上春樹全作品の第2期。第5巻は読売文学賞受賞作品「ねじまき鳥クロニクル」の第3部「鳥刺し男編」を収録。著者による書下ろし解題入り。 

相変わらずワダさんの表紙がいい。全国の本屋や図書館の書架におさまる、ワダさんの本を思う。ワダさんは旅立ったけれど、本はいつまでも読まれ続ける。