まみ めも

つむじまがりといわれます

久生十蘭ジュラネスク

久生十蘭ジュラネスク---珠玉傑作集 (河出文庫)
ちくま文学の森で読んだ久生十蘭の二編にいちいちハートをぶち抜かれたもので、短編集を買った。「小説というものが、無から有を生ぜしめる一種の手品だとすれば、まさに久生十蘭の短篇こそ、それだという気がする」というのは澁澤龍彦のことばだそうだけれども、本当に、どこまでが真でどこまでが虚なのやら、どこまでが正気でどこまでが狂気なのやら、という具合で、十蘭の才能にそらおそろしい気持ちになった。収録は「生霊」「南部の鼻曲り」「葡萄蔓の束」「無惨やな」「遣米日記」「藤九郎の島」「美国横断鉄路」「影の人」「その後」「死亡通知」。わたしの好きな十蘭は「南部の鼻曲り」「死亡通知」であるが、「美国横断鉄路」がなかでも衝撃的ではあった。アメリカのネヴァダだったかに鉄道を敷くのに、シナ人を半強制的に連行してさんざんに虐待するという内容で、その虐げっぷりがどうにも凄まじくて、はっきりいってトラウマ、もう二度と読める気がしない。事実、この短編を病院の待合で読んだのだったが、ぐったりとソファに横になる人やうつろな中年女性などでごった返す雰囲気にもあてられてしまい、最後のほうは文字を眺めるというのか、頭の中で映像化しないようにつとめながらマッハ読みした。病院から帰宅してしばらくのちに強烈な悪寒、発熱に襲われ、そのまま果てるように午睡したけれども、虐げっぷりが頭の芯のところでリフレーンしてそれは悪夢のようだった。シナ人の呪いかと思われた。その夜、浴室の鏡に自分の体をうつしたところオッパイが赤くなっていて、悪寒と発熱はシナ人の呪いにあらず乳腺炎であることが判明したものでほっとした。
病院では、甲状腺の検査をしてもらい、亢進していたホルモン分泌がいまは不足状態にあり、チラーヂンというホルモン剤を飲んで補充することになった。ホルモン低下によってウツや倦怠などが発現するということだけれども、元来がぼんやりと根暗なもので、よくわからない。