まみ めも

つむじまがりといわれます

幸福な死


BOOKOFFに出掛けたら、まっすぐ105円の単行本コーナーに行く。最寄りのBOOKOFFでは105円の単行本コーナーは、天井まである書架ふたつを埋めている。背表紙を隅から隅まで眺める。隅から隅まで眺めたあとで、もう一度ふりだしに戻り、隅から隅まで眺めなおすこともある。たいして回転がないので、あれが減ったこれが増えたというのが大体わかる。最近では広末涼子がキャンドルジュン氏と結婚したあとで広末本が三冊増えていた。ずっと置いてあるのは紀香魂とダーク・ストーリー・オブ・エミネム。広末や紀香やエミネムにまぎれてカミュがあったりする。カミュを一冊抜き取り、レジで清算する。百円玉と五円玉をトレイに置いて、一冊の本を袋に入れてもらうのはなんだか気がひけるので断って鞄に突っ込む。表紙のポートレイトはアンリ・カルティエ=ブレッソン、1972年初版。裏表紙にあらすじが書いてある。
生きるためには金持にならねばならぬと思った男―パトリス・メルソーはその金を獲得するためにザグルーを殺害する。マルトとの愛、貧しい樽職人との会話、中欧からイタリアへかけての旅、アルジェ高地での花咲ける乙女たちとの共同生活…そうした厳しく熾烈な青春の情景が、この作品を豊かにしている。
ロジェ・キヨの「素晴らしく書けてはいるが、同時に下手くそに縫い合わされた」作品というのがどーにもこーにも的を射た表現で、詩のような断片がコラージュされており、その全体はけして統制がとれていない。「異邦人」につながる資料として扱われることの多い作品らしく、「ヴァリアントならびに注」という章がたてられいくつかのタイプ原稿の草稿の違いをことこまかに載せてあったりする。全体はまったく茫漠たるありさまだけれども、それでも最後まで読んだのは、センテンス、ときにパラグラフに強いきらめきがあるせいだろう。最後、メルソーが死ぬところの描写なんてものすごい引力。わたしは死んだことがないので本当のところは知らないが、死を知らないわたしにも、死というものが幾分眼前に展開されるように思って、何度も読み返してしまった。

かれは寝台の上に仰向けに倒れた。そしてかれは、自分のなかで緩慢な昇天を味わっていた。(中略)≪あと一分、あと一秒≫、とかれは思った。上昇がとまった。そしてかれは、小石のなかの小石となって、心は歓喜にひたりながら、あの不動の世界の真実に還っていった。