まみ めも

つむじまがりといわれます

そうか、もう君はいないのか

そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)
BOOKOFF¥105シリーズ。城山三郎氏がどんな人かもヨウ知らんのだけれども、新聞の記事で、死後に奥さんのことを記した原稿が云々したというのを読んで、それを思い出して手に取る。タイトルになんだか照れてしまい、岩波文庫のワイド版夏目漱石こころ、フロイト料理読本、どちらも¥105棚にあった、その二冊にさしはさんでそっとレジに出した。思春期男子中学生のエロ本の手口。一般的にはフロイト料理読本の性感帯ホットケーキなんて見出しのほうが恥ずかしいのかもしらんが、どうも人間がねじくれているのでそういうわけにはいかないらしい。
いやしかし、タイトルで照れているぐらいでは甘かった。城山氏、奥さんとの出会いを述懐していわく「間違って、天から妖精が落ちて来た感じ」。あんまりに照れてしまい、そこのところを読んだときにはついに本をいったん閉じてしまった。こういう地雷がそこかしこにいくつもあり、城山氏の愛が行間からあふれ出るかっこうになっており、恥ずかしいので直視しないようにして読んでいく。こういうふうに本をなのめ読みしたのははじめてかもしれない。死後に原稿をかきあつめて並べたというだけあって、エピソードが散逸してまとまりはないし、人のためというより自分自身のために書いたんだろうと思う。写真を見ると、妖精であるところの容子さんは頭にもわもわカミナリ様パーマのあたったまあるいおばちゃんなのだが、それでも、本を読んでいくとその天真爛漫さがいやおうなしに伝わって、本当に妖精のような人だったんだろうなと思う。がんを告知された容子さんが、 「ガン、ガン、ガンちゃん ガンたらららら」と歌いながら帰宅して城山氏にガンであったことを伝えるくだりなんかは、切なくって胸がふさがった。
そうか、もう君はいないのか、といった城山氏ももういない。もういなくなったふたりの愛にわたしが勝手やたらに照れているという構図。