まみ めも

つむじまがりといわれます

雪屋のロッスさん

雪屋のロッスさん (ダ・ヴィンチブックス)埼玉から持ちこんだ本が読み終わりそうなので、ブックオフオンラインで本を買ってみる。実際の店舗とちがって¥105ではなく¥100コーナーが敷設されている。文学・エッセイ・詩集、小説、外国の小説、云々、と、はてよくわからないジャンルに分類されてあるのを(文学ってなんだ)、とりあえず文学・エッセイ・詩集というところをひらくと七千冊あまりもあるので一瞬間ひるんだが、二十冊ずつタイトルを眺めだしたらなんだか雑然としたブックオフの本棚を前にしているようで愉しくなってきて、結局すべて流して中から23冊抜き出した。しめて¥2300円。もとより古本なのでたいした期待もしないで頼んだんだったが、届いた包みをひらいて店舗にあるより状態のよさそうな本たちを一瞥して気分がにやつく。ブックオフで気に入らないのは、粘着質の値札シールをつかっているところで、剥がすと裏表紙がはげたり黒くべたつきがのこったりするのがわたしのかすかな美的感覚に反する。そもそも粘着質のものというのがなんとなく苦手で、絆創膏もガムテープもだめなんだった。プールサイドでふやけた絆創膏が落ちているのなんか汚らしくてものすごい嫌悪してしまう。これは、わたし自身が非常な粘着質のおんなであるので、ともすると同族嫌悪というやつかもしれない。ともかく古本といえどもじぶんの所有になるものに粘着のしるしののこるのがいかにも許せないでいたのだが、オンラインで買った古本にはなんと値札が貼られていない。こころの中でヨッシャとちいさくよろこぶ。それにしても、活字に値段があるというのがそもそもよくわからん話なので、荷風チェーホフも鴎外も島田雅彦横尾忠則もおなじ値段というのは、重いも軽いもさらさらもべたべたもなにもかもいっしょくたでさっぱり解せないようでもあるがだからこそいいのだという気もする。
ブックオフオンラインで買ったなかの一冊はひさしぶりのいしいしんじ。三十一のさまざまなひとびとを描いた短編集。表題になっている雪屋のロッスさんのなかに、

「さいわいなことに、雪はいずれ溶けます。はかないようですが、そこが雪のいいところです」ロッスさんは、そういって笑いました。

というくだりがあるが、いしいしんじの話というのは、どれをとっても雪のようにすっと舌のうえでほどけて形もなんにも残らないようでありながら気づいたらじぶんが少し透きとおっていた、そんな気がする。うすいうすい檸檬の苦味のような毒気の匙加減。