まみ めも

つむじまがりといわれます

犬―クラフト・エヴィング商会プレゼンツ
赤毛の犬(阿部知二);犬たち(網野菊);犬と私(伊藤整);わが犬の記愛犬家心得(川端康成);あか(幸田文);クマ雪の遠足(志賀直哉);トム公の居候(徳川無聲);「犬の家」の主人と家族(長谷川如是閑);犬(林芙美子);ゆっくり犬の冒険―距離を置くの巻(クラフト・エヴィング商會
土曜は友人の結婚式で、息子が生まれて以来はじめて一日家をあけた。ひさしぶりの化粧をバカ殿とわらわれつつ朝九時に家を出て六本木、帰宅は九時をまわった。二次会ではアルコールを控えたが、慣れないハイヒールで帰り道はよろよろし、歩きにくいハイヒールやら収納することを拒否したかのようなちんまりしたパーティーバッグにいよいよ腹立たしくなり、すべて放り出して走り出したい衝動におそわれた。息子は母親がおらんでも至って平気、帰ったときにはすーすーと寝息をたてていた。翌日も来客あり飲酒。ひさしぶりのアルコールのせいなのかすこしおなかをくだしていたが、きのうになってついに胃が食べ物を受け付けなくなり、会社のトイレでヴォミット。そのあと駅のトイレでも家でもヴォミット。水分補給に飲んだポカリスエットもヴォミット。からだぢゆうにさむさむがたつた(内田百間の小説にあったこのフレーズがすきで、いつかつかってやるぞとおもっていたのをここにきてやっと使えた、うれしい)。今朝はゼリーとプリンを受け付けるようになったが、会社をやすんで家でおとなしくしている。
この、犬、というアンソロジーはむかしの文豪たちの犬にまつわる作品をあつめてある。ブックオフで¥105。猫というのもあるらしい。いずれ猫も読みたい。会社の机のひきだしにしまって昼休みにひとつふたつずつ読んだ。バタをパンに塗ってやらないと食べない犬(にネコマンマをあげてみたり)、クマという名の犬、ひとのかかとに噛み付く癖のある犬、犬もさまざまならば人間のほうもさまざまで、みんな犬にかんしてあーでもないこーでもないと好きなことを薀蓄たれているのがすこし滑稽なようでもある。わたしのしらない犬ばかりのはずなのにわけもなく懐かしい切ない気持ちになり、ふっと、わが家で飼っていた犬のこともおもいだす。わたしがハタチの頃に亡くなった犬はミニチュアダックスで、わたしが物心ついたころから一緒だったが、小学生のとき、うっかり尻尾をふんづけたら、ぎゃっといってとびあがっておしりに噛み付かれた。しばらく歯型がのこって痣になっていた、あれはそれからどうなったろうと、十五年ぶりくらいでスカートをたくしあげて仔細にさがしてみたが、月日がすぎてわたしのからだも痣やら染みやら蚊に刺された痕やら増えてしまい、どれがなんだかもはやわからんのであった。歯型がのこっていたらナあとすこし期待していたのは、かなわなかった。そういえば、息子はいまつまむのがブームで、抱き上げたときにわたしの喉元をしきりに触るのをなんだろうとおもっていたら、黒子や染みをつまもうとがんばっているのだった。ことばも多少わかるとみえて、「お花が咲いているよ」とはなしかけたらじぶんのお鼻をつまんでいた。