まみ めも

つむじまがりといわれます

父、帰る

父、帰る [DVD]
三時半に目が覚めてトイレにいったら、破水した。パジャマを濡らしたままで階上に寝る母を電話で起こし、浦和の筈氏に電話をし、産婦人科に電話をし、着替えを済まし、荷造りをし、ねむっている息子を父にまかし、して、表にでたら、北斗七星が目のまえにあって玄関先で立ち止まる。ずいぶん星が夜空にきらきらしているのに息をのむ。しんとした透明な夜だ。車に乗り込み、点滅してやすんでいる信号機をいくつもやり過ごして病院にいく。カーステレオからはミスターチルドレンのイノセントワールド。母が、わたしや妹を産んだすぐあとで、女の子だとわかって、この子たちはゆくゆくこんなに辛い思いをするのか、かわいそうにと思ったと車中で話すのでつーんとした。陣痛がいったりひいたりし、結局夕方になってうまれたあかんぼうは、うぶ毛が頬まではえてお猿さんのようだった。かぴかぴした頭からはふんわり生臭いにおいをさせている。何度もにおいを吸い込む。こちらは汗でべっとり。分娩台のうえで抱かせてもらいひっついていたらそのうちふたりしてウトウトした。夜、筈氏とハーゲンダッツでささやかにお祝い。げんきな男の子でうれしい。家族が四人になってうれしい。とにかくうれしい。
父、帰る」というのはロシアのとことん陰気な映画。長年家を離れていた父親がひょっこり帰ってきて息子ふたりを連れて無人島にいく、とあらすじを書くと長閑なロードムービーみたいようだが、全編をつらぬくふさいだ緊張感、ばら撒かれた謎がすべて謎のまま回収されないというもやもやにどーんと滅入ってしまった。映画のタイトルを知っている気がして借りたが、わたしの記憶にあった「父、帰る」は菊池寛の小説なんだったことにあとから気づく。つたやで借りた五本の映画はこれでおしまい。