家の前の遊歩道わきの植え込みで、となりのおじいさんが畑をつくっている。今年も食用菊の黄色が鮮やかになった。遊歩道を隔てたむかいも、古い家がいつのまにか取り壊されて、気づいたら畑になっている。家の前にあった立派な梅の木も、根こそぎなくなってしまった。わたしがプロポーズされたのは、夏の入り口の土曜日で、したの部屋にいたのを呼ばれて、階段をあがってったところで、ケッコンする?とふいにきかれた、そういう簡単なものだったが、そのときに窓からみえた外の初夏の日中のおそろしいまぶしさと、その夜ひとり暗がりで聴いたシャーデーと、デトロイト・メタル・シティ、蒸し暑さ、そういう全部が「感じ」になって押し寄せて、階段のうえの窓からぼんやり外をながめると、時間の流れにくらくらと足をとられそうになる。なんでもない顔をしてめまぐるしくいろんなことが変わっていく。そして、平然とした顔ですっかり変わってしまった自分に気がつく。
- 作者: 吉本隆明
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 1997/06
- メディア: 単行本
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離別とか死から、失った物と得た物と、どっちが多いんだと言ったら、失った物も多いけども、得た物の方がずっと多い。その余りがずっと残って、悲しみの感じとして、年輪になる様な気が私はしますね。そういう意味では、別れというのは悪い事ではないんだと言える気がするんです。
イオンやヨーカドーに並んだみたいに誰にでもわかることばの陳列でじぶんの「神様」なところまで語れるって、すごい。