セイちゃんの保育園の送迎は、いつも、フクちゃんを抱っこして、ベビーカーを押して、セイちゃんは家を出るときは歩いて出るが、途中で風がピューと吹いたりすると、ベビーカーノル、なんていってベビーカーに乗ったり、あるいは乗らなかったりする。木曜の朝、セイちゃんに、ベビーカーどうする?ときくと、ベビーカーイラナイの、とやけにきっぱりいうので、思い切ってベビーカーなしで家をでた。セイちゃん、まずは玄関先で葡萄のたねぐらいのちいさなブルーベリーをつまんでかじり、家の前の石ころを拾って側溝におとす。遊歩道ではムラサキシキブの実を摘み、犬に話しかけ、ナナカマドの実をとり、花壇のまわりをお気に入りのおもちゃをぐるりと走らせ、花の色あてをし、そんなこんなで五百メートルの道程を二十分かけていく。帰りは別のルートで、フワフワちゃんと呼んでいるエノコログサを引き抜いたのを両手にもって、公明党のポスターの37歳国際弁護士や街灯をフワフワちゃんでコチョコチョくすぐり、電信柱と塀の隙間を通り、ころぶ真似をし、イタイノイタイノおかあちゃんにトンデケーとふざけ(もちろんイテテテテーと全力でリアクションをとる)、家の手前十メートルのところにある空色のベンチでかならず休憩をとる。夕焼けもすっかりさめきって薄暗くなって家につく。それにしても、セイちゃんがはじめて保育園の往復をベビーカーなしで歩ききった。胸にろうそくがぽっと灯ったみたいにうれしく、がんばったね、と声をかけたらうれしそうにした。
みんなの大相撲―あなたの知らない力士たちのドスコイ生活 (ベストセレクト)
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