- 作者: 飯沢耕太郎
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 新書
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たとえば、アメリカの作曲家ジョン・ケージのことば。
茸を知れば知るほど、それを識別する自信が薄れていくんです、一本一本が違っていますから。それぞれの茸がそれ本来のものであり、それ自らの中心にあるのです。茸に詳しいなどと言うのは無駄なことです、茸は人間の知識を裏切りますから。
ポーランドのSF作家、スタニスワフ・レムが甥っ子に書き取らせた文章もものすごい。
森にはきのこが生息しています。きのこがキリンと違うのは靴下をはかないところです。きのこはたいてい笠を持っていますが、晩のきのこはシルクハットを使います。死んだ魚はあまりきのこを食べません。でも彼らの好きな料理は豌豆スープです。えら呼吸する水中きのこが存在し、彼らは完璧な適応のおかげでカワカマスと鯉によく似ているため、それらと区別がつきません。このようなカワカマスから作ったきのこスープは魚スープと考えられています。森にはまた野生の玉ねぎや、森の中を大声で叫びながらさまよう人たちの毛根も生息しています。その叫びがあまりに放浪者達を揺さぶるので、彼らからフケが落ちます。しかしながら森の下ばえがフケだけからできているというのは本当ではありません。普通ハイタカと呼ばれる空飛ぶきのこは、翼の代りに、ぼんやりした人がなくしたハンカチを使います。きのこの中で最も残酷なのは人食いアカモミタケで、これは信心深い老婆たちに片足を突き出しておいて、それから塩なしで食べます。
その他にも、国際きのこ会館というきのこ尽くしのホテル(座布団も浴衣もきのこ柄!)、マタンゴというきのこ人間の映画、お定まりの官能小説におけるきのこのモティーフ、これでもかこれでもかときのこが畳みかけてくる。きのこにまつわるもろもろの脱力感、隠微、シュールさ。そして、この本を読んだわけでもなかろうに、セイちゃんが、朝、ワーと泣きながらおきて、開口一番、「きのこタベタイ!!」と言い放ったのだった。おそるべし、きのこ。