月曜日、セイちゃんを保育園に迎えにいった帰りに図書館へいく。本を選んで、川っぺりをぶらぶら歩いて、歩道橋をわたり、埼京線ががたごと走り、家にむかうちいさな路地にはいると、目の前に白くふくらんだ月が見えていた。満月にすこし足りない。そういえば背中のフクちゃんがきょうはやたらとおとなしい。気持ちがざわざわと粟だち、セイちゃんに、フクちゃんねてるの、ときくと、ウウンおきてるよという。夜になる前に帰ろう、とセイちゃんを促して、月に向って歩く。家のそばまでくると月は屋根に隠れてしまった。なんとなくほっとする。なんだか世界がねじれてしまったような気がしたのだが、あとから、フクちゃんは熱でくったりしているのだと知れた。結局、突発性発疹だったらしく、昼も夜もぐずぐずと乳を吸って眠り、三日目に首のうしろに発疹がでて、解熱したが、すっきりしないと見えて相変わらずぐずぐずやっている。セイちゃんも、うつったのか、頬にすこし発疹がでた。それにしても、図書館からの帰り道、昼と夜の合間の月の白さ、いびつな形、ちょっと脅かされる大きさ、なんともいえない異様な感じだった。
- 作者: 井伏鱒二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1957
- メディア: 文庫
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川本三郎の鉄道本にでていた井伏鱒二を図書館で予約。集金旅行というタイトルに、表紙には男女のうしろ姿がエンピツ画で描かれ、鄙びた雰囲気を漂わす。絶版になっているふるい文庫なので、文字もちんまりと印刷が滲んで、ページが灼けて、おもわず匂いを嗅いでしまう。表題作の集金旅行は、ぽっくり死んだ下宿屋の主人にかわって滞納されていた家賃を回収する話で、岩国、福岡、尾道と行脚する。主人公の旅の道連れのコマツさんは津々浦々に慰藉料を請求したいような男がばらけているというちょっと得体のしれない女の人。あー、このうらぶれた感じ、たまらない。どじょう掬いのように脈絡がなく、悲哀と滑稽がないまぜしている。