わたしは自他ともに認める悪筆で、ひと文字ひと文字のまとまりがなく、文字を構成する線や点の部分がそれぞれ違う方向性でてんでばらばらに文字をやろうとしている。いい中年がこんな情けない字でよいものかと、前々から日ペンの美子ちゃんやユーキャンのペン字講座が気になっていたが、ついに、ペン字練習帳なるものを買ってみちみちと練習に勤しむことにした。姿勢やペンの握り方、はじめはたての線、横の線、らせん、じぐざぐ、それからあいうえおとお手本をなぞってゆく。この陰気な作業がなんだかたのしい。背筋をのばして無心でペンを握る。ひらがなの曲線の色気。美しい字というのはなかなか大胆な構図をしている。なんだかグラビア女優みたいに見える。檀蜜だってなんのその。わたしがこれまで書いていた字は、わたしの肉体および精神の貧相さをもろに露呈しとったにちがいない。あーなんてこと。これからは紙のうえに、あんな姿やこんな姿のひらがなを陳列し、文字くらいはセクシーにいきたいなと思っている。
- 作者: 吉田知子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/03
- メディア: 単行本
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