日曜日の午後、庭にでたいというセイちゃんにカーディガンを羽織らせた。ポケットに猫が縫い取りしてある緑のカーディガンで、ボタンで留める。ときどきボタンの練習をしているセイちゃんだが、この日はじめて、ひとりでボタンを留めることができた。その瞬間、思わず泣いてしまった。セイちゃんが一生懸命ボタンをボタンホールに通しているさまをみて、穴の連想か、産道を通るセイちゃんのことを、ちょっとだけ思ったのだ。さいご、頭の先っちょだけ出てから、いっぺん引っ込んだので、おでこにしばらく締め付けの跡が線になって残っていた。それを思い出したら、泣けた。セイちゃんが、お母ちゃんどーして泣いちゃった、ときいてくる。ここ、ここ、と自分で留めた一番上のボタンを何度も指さしてうれしそうにした。
猫町 萩原朔太郎+心象(いめーぢ)写真 (image travel series 1)
- 作者: 萩原朔太郎,心象写真制作スタッフ
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2006/11/05
- メディア: 単行本
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町全体が一つの薄い玻璃で構成されてる、危険な毀れやすい建物みたいであった、ちょっとしたバランスを失っても、家全体が崩壊して、硝子が粉々に砕けてしまう。
これに似た気分を催す景色は、わたしにとっては御茶ノ水の駅で、あそこは、御茶ノ水橋に立つとJRのホームが見えて、そのむこうの聖橋のしたを丸ノ内線が走っている。どうかすると、両方の線路に電車が行き来して、さらにむこうの秋葉原の電気街、ビルディングのうえをちいさく飛行機がとんでいることがあって、そういうとき、誰かがくしゃみでもすると、飛行機が落ちてしまわないか、飛行機が飛んでいく軌跡でびりびりと世界が破けるんではないか、と、想像するのはたのしかった。