台風といっしょに夏の残りもぬぐわれていった。帰り道、こないだまで照りつけるようだった西陽が、夜の入り口、さわやかな夕焼けに染まって、思いきり息を吸いこみたくなる。雲がしましまに流れて、こんながらのワンピースがあったら素敵だけど、着こなせないなと埒ないことを考える。夜、布団にはいるまえに窓から空を見上げたら、月明かりが透き通って、光がまっすぐ自分にさしてくる。かぐや姫だったら月に帰ってしまうし、マイケル・ジャクソンだったらスリラーになっているところだが、一介の主婦につきそのまま帰宅。
- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1988/10
- メディア: 単行本
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湯の中にとどまっている間の、あの中空に浮いたような、やさしくやわらかい母胎に帰ったような、あの感覚ばかりは何にも代えがたいのだ。