土曜は抜歯。先週の治療のときにさんざん脅されたので覚悟を決めて診察台にあがり口をあけたけれど、思いのほか簡単に抜けてしまった。シャンパンの蓋をあけるように、ぎゅー、ぽん、と抜けた。麻酔が切れるまえにロキソニンを飲んでおいた。痛みはないけれど生々しい匂いと感触が口のなかに漂い食欲がなくなってしまった。米や麺を食べたい気持ちになれない。その日は夜まで口のなかにじわじわと血が滲んだ。口のなかにたまったつばを、ミリオンダラー・ベイビーのマギーのつもりでぺっと吐き出す。鏡のなかをのぞくと、右下の奥にグロテスクなホールがのぞいている。ダイナーのカウンターでフランキーがつついていたレモンパイを食べてみたい。
- 作者: カフカ,池内紀
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2000/11
- メディア: 単行本
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これまで『アメリカ』として知られてきた作品がまったく新しい相貌で姿を現わす。カフカの手稿そのものをテキストとした新校訂版全集を池内紀による清新な個人訳で贈る。
I 火夫
II 伯父
III ニューヨーク近郊の別荘
IV ラムゼスへの道
V ホテル・オクシデンタル
VI ロビンソン事件(車がとまった……)(「起きろ、起きろ!」……)
断片
(1)ブルネルダの出発
(2)(町角でカールはポスターを目にした……)(二日二晩の旅だった……)
池内紀とカフカはぴったりと合わさって、カフカが日本語で書いたらこれ以外のことばはありえないのではないかという日本語が用意されている。話は普通に見えてまったくふつうではない。カフカは妙に神経に障り疲れるのだけれど中毒性があってたまらない。