帰り道に青果屋に寄り、いちごが安かったのでカゴに入れ、そのあとで八朔や豆腐も入れたら持ち重りがしたので、いちごを陳列にもどしてからレジにならんだ。レジのお姉さんが、ありゃ、なんだこのいちご、と言ったのでカゴをのぞくと、いちごがパックからひと粒落ちてしまっていた。ごめんなさいと、経緯をあやまると、ウーンとすこし悩んだあとで、なにかの縁だから、家族にかくれてたべな、といってビニールにひと粒いれてもたせてくれた。家についてから、台所で晩ごはんの支度をしながらひと粒口にいれる。安いいちごなので小さないびつな形。すっぱくておいしい。むかしは、いちごのことを色とフォルムで評価の高い果物だとおもっていたけれど、やっぱりおいしい。色とフォルムも、もちろんおいしいけれど、わたしはいびつでちびたすっぱみの強いいちごも好きだなと思う。恋だって、甘みだけ強いよりは思いきりすっぱくて甘さはかすめるくらいのほうが、いいと思うんだけどな。
- 作者: 色川武大
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1989/10/01
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