まみ めも

つむじまがりといわれます

箱の夫

遊歩道のわきにはびこっている苔が、ぽわぽわと笑い出したような表情になっているのや、桜の枝にぷちぷちと宿る芽やを見て、焦り、そそくさと図書館から冬の本を借りてきて読む。雰囲気を出すために煮込みを作る。牛すじ肉を2度ゆでこぼして、下ゆでしたこんにゃくと大根と人参、味噌と砂糖とみりんと酒と醤油をいれて圧力鍋でしゅんしゅんいわす。あっという間に茶色くしみた大根が煮えた。ちょっとした裏切りのようにあっけない。1日味をなじませて、きょうの夕飯にする。

箱の夫

箱の夫

ト本。1月の企画コーナーは「家族の物語」だった。その中からタイトルで選ぶ。変愛小説集にあった本谷有希子のは「藁の夫」だったっけ。世の中には藁の夫もいるし、箱の夫もある。

夫を運ぶのにちょうどいい大きさの箱はあるかしら? 「小さな」夫との奇妙で幸せな日々。しかし、ある日…。たしかな手ごたえを持っていたはずの現実が、ふとあやうくなる瞬間を鮮やかに描き出す。表題作ほか7編を収録。
1 箱の夫 7-30
2 母の友達 31-52
3 遺言状 53-90
4 泳ぐ箪笥 91-114
5 天気のいい日 115-134
6 恩珠 135-164
7 天 165-194
8 水曜日 195-221

吉田知子は「千年往来」が手に負えなかったので遠ざかっていた。こんな風に足元をすくわれて底のない穴に落ちていく短編たちは大好きだと思った。