まみ めも

つむじまがりといわれます

小さな町にて

気温があがったりさがったり落ち着かない。春の陽気でうわずってしまう気持ちが苦手なので、寒の戻りがあったりすると少しほっとしてたりして。春は待っているときが一番よくて、実際に春が来るとなると及び腰になってしまう。モクレンも、咲いてしまうとちょっとつまらない。

北村知之が「冬の本」で挙げていたのがこの本だった。「読書というおこないは、自分にしか手にすることのない、小さな町のような本を編んでいくことだとおもう」なんて言っている。

独自の文学世界を紡ぎつづけた作家・野呂邦暢。その早すぎる晩年に発表した青春と読書をめぐる「小さな町にて」ほか、美術エッセイ、書評など248編を収録。小説にとどまらない語り部の文業を集成する随筆コレクション。

この本を読んでみたかったのは、北村知之の文章がよかったのもあるけれど、フィリップ「小さき町にて」を思い出したせいもあった。野呂邦暢が旅先の町の本屋で買ったのがフィリップで、そこからタイトルをもらった話が書かれている。よそへ出かけて買った本が旅の思い出になるというのは身に覚えがあって、タイに出かけたときに、空港の書店で買ったのが吉村昭「破獄」で、漢字が多くてページ全体が黒ずんだ分厚い文庫本で、観光で行く旅先に似つかわしくないようで、タイの蒸し暑い空気に妙にマッチして、スリルに追われるようにむさぼり読んだことが忘れられない。