まみ めも

つむじまがりといわれます

忘れない味

おとうさん、週末からいよいよモルヒネを使っている。いよいよ、という局面が順番にやってくる。肺がんに髄膜播種というキーワードで引っかかってきた文献を読んで予後のだいたいのところはわかっていたけれど、わかっていることと実際に起こることとはやっぱり断然に違う。早いうちに一度帰っておいでとおにいちゃんが言うので、なんとか都合をつけてチケットを手配したその夜に声枯れしていたふーちゃんが高熱を出して、お見舞いは来週に持ち越し。おそらく病室にいっても、でくのぼうのように佇むしかできないだろう。自分を納得させるために行くのだと思う。とにかく頼りない気持ち。

忘れない味 「食べる」をめぐる27篇

忘れない味 「食べる」をめぐる27篇

 

ト。

食べることは生きること。林芙美子「風琴と魚の町」、南伸坊うな重はコマル」、山田太一「食べることの羞恥」など、食べ物・飲み物をテーマとした小説、エッセイ、詩歌、マンガなど、全27篇を収録する。 

天井からぶら下がっていたそば 佐野 洋子
歪ませないように 伊藤 比呂美
初めてのフェイジョアーダ 旦 敬介
白桃 野呂 邦暢

風琴と魚の町 林 芙美子
半ラーメンへの憎悪 町田 康
カタギの舌で味わう 深沢 七郎
胡瓜 鏑木 清方
すいかの匂い 江國 香織
チャカホイと軍人と女-林芙美子- 野見山 暁治
ぞろり-食にまつはる十一句- 間村 俊一
珈琲と馬鈴薯 堀江 敏幸
妻が椎茸だったころ 中島 京子
マリコ、うまくいくよより 会社では、なんだか宙ぶらりん 益田 ミリ
白い御飯 吉村 昭
ジェネリカの青い実 山崎 佳代子
眼と舌の転戦 友川 カズキ
黒曜石 平松 洋子
椿の海の記-第八章雪河原より- 石牟礼 道子
菊正をこよなく愛した 美濃部 美津子
うな重はコマル 南 伸坊
仲間 高橋 久美子
少し曇った朝 川上 弘美
食べることの羞恥 山田 太一
鬼の食事 石垣 りん
梅色吐息 吉本 隆明
最後の晩餐 ハルノ 宵子

土曜の夜にやっと算段がついて、せいちゃんのお誕生日会をやった。実に4か月も遅れてしまった。リクエストのメニューは、カレーライス、まだあったかいポテトサラダ、それからカルピスとさつまいもクリームのケーキ。ほかに、スペイン風のオムレツ、ピータン豆腐、スタッフドバケット、クラッカーと瓶詰めの豚レバーペーストを用意した。さつまいものケーキは、裏ごししたいもをホイップクリームとあわせる、その前にさつまいもペーストに砂糖を入れ忘れてしまったと思ったけれど、うす甘い味つけの好きなせいちゃんは気に入ってくれたらしい。さんざん夜更かしして、お友だちふたりは泊まっていった。

吉本隆明とハルノ宵子がならんでいて、しんとした気持ちになる。こどもたちより、わたしの思い出のために、トマトの数を勘定したりわたあめを買ったりさつまいものケーキをつくり、記しているのだと思う。