まみ めも

つむじまがりといわれます

騎士団長殺し

駅前の青物屋のワゴンに水出しの麦茶パックが安売りされるようになり、ラジオから森山直太朗の「夏の終わり」が流れて、夏に引導が渡された。セイちゃんも夏休みが終わり、始業式の日にやっとギプスが取れた。最後のお弁当はリクエストで麻婆豆腐。簡単なメモを書いて入れておいたら、左手で書いた返事と折り紙で作った金ピカの金魚が戻ってきた。夏休み中にすっかりいつもの鏡文字が復活して、くっつきの「を」も忘れてしまっている。ギプスの取れた右腕はほっそりとして、固定した形のままで持ち上げておそるおそる使っている。まだ重いものを持ったりしてはいけないらしく、ランドセルを担ぐ姿がすこしだけ頼りない。咳が続く。

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

義父本。

私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた。それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕れるまでは…。

騎士団長がもう二週間近く私の前に姿を見せていないことも、とくに気にはしなかった。そしてやがて次の日曜日がやってきた。きれいに晴れ上がった、慌ただしい日曜日が…。

鎌倉の山の家で義父の書斎から村上春樹を借りるのはちょっとした恒例になっていて、今回の夏休みは騎士団長殺し一辺倒。下田行きにも持っていき、人のいない早朝5時の温泉につかって読んだりした。新聞の書評欄の切り抜きが何枚か無造作に挟まっているのもお定まり。ざわざわする物語と回収されない伏線、この波立ちとも呼べるようなストーリーと読後感が村上春樹の独壇場。最初はいけすかないと思っていたけれど(いまもやっぱりいけすかないと思う部分はある)、すこしずつ村上春樹を読めるようになってきた。