金木犀が爛漫で、街の中ににおいの濃淡が見えるようだ。朝、目が覚めて部屋を出ると、夜のあいだうっすらあけてあった階段の窓からひんやりした空気と甘いにおいが入りこんでいる。ちょっと甘すぎやしませんか。
いなかから新米と梨が届く。ごはんがお釜の中でぴかぴかつやつやに光ってわらっている。思春期の高校生くらい山盛りによそっておかわりもする。げんちゃんはパン食派であるらしく、食パンの耳を切り落としてふかふかのところを細かく刻んだのをタッパーに詰めて渡すと、背中を向けてつまんで口に運びながらにやにやしている。ななめ後ろからみたほっぺの形がクレヨンしんちゃんだ。
ト。
京都の書店では本が全裸の女に変わり男と交歓し、東京のお寺ではビルマのジャングルに飛んだ男がトラを見て小便を漏らす…。催しものにつどった人々の前で、空気、時間に任せ、うねり弾む文体で綴った、54の小説。
アート p13-16
亀 p17-21
場所 p22-24
布 p25-36
クマ p37-41
花 p42-45
光 p46-53
箱庭 p54-57
鳥 p58-62
本 p63-68
坂 p69-77
山 p78-85
線 p86-92
本 p93-100
花 p101-106
滝 p107-112
蔵 p113-118
ゴリラ p119-125
+- p126-132
ボタン p133-138
小説 p139-143
岩 p144-150
半 p151-154
崖 p155-160
父 p161-166
犬 p167-172
お寺 p173-178
米 p179-186
映画 p187-193
雪 p194-208
脈 p209-214
おしっこ p215-220
空 p221-227
森 p228-232
シスコ p233-237
屋敷 p238-242
芝生 p243-248
福島 p249-256
ギター p257-263
森 p264-269
湯 p270-276
牛 p277-281
ピアノ p282-289
バカ p290-296
十三 p297-303
花 p304-309
器 p310-316
子供 p317-323
梨 p324-331
糸 p332-337
都 p338-345
ビール p346-351
金 p352-358
道 p359-362
いしいしんじのお話は、どれも突拍子もなくあほらしく、わけもわからぬままに味わってみたら懐かしさに出会う。