いなかから届いた新米がなくなるのを惜しんで、休みのお昼に炊きたてのごはんをおむすびにする。てのひらが真っ赤になるのを水で濡らしてごまかしながら、塩を振って、ひとりにふたつずつ。並んだ姿がいとおしくて写真を撮る。たべるときに海苔を巻いて頬張る。胸が高鳴る。
先週末の雨で金木犀の花が落ちて、秋のはじまりが終わったと思っていたけれど、久しぶりに日が届いた日曜の午後、少しだけにおいが街に流れていた。
げんちゃんが一歩を踏み出した。そろりそろりと慎重にすすんで、みんなに囃されてうれしそうに手を叩いている。後ろ髪だけのびて、おでこが広くて、バカ姉弟の「おねい」みたい。思わずバカ姉弟のLINEスタンプを買ってしまった。
ト。
幸福な記憶も、切ない想いも、料理とともにあった。小さくて美味しい惣菜屋「ここ家」で働く3人の女性たちの、たまらなく愛しい人生を描く小説。『ランティエ』連載に加筆・修正して単行本化。
新米 p6-22
ひろうす p23-41
桃素麵 p42-61
芋版のあとに p62-83
あさりフライ p84-102
豆ごはん p103-121
ふきのとう p122-140
キャベツ炒め p141-158
トウモロコシ p159-177
キュウリいろいろ p178-194
穴子と鰻 p195-215
食い意地が張っているので、食べ物系のタイトルに弱い。