おつかいから自転車で帰ったら、黒い青いものが視界にひらめいて、庭の奥にいってしまう。あとを追ったら蜻蛉のようでもあり蝶々のようでもある。しらべたらハグロトンボというらしい。暑さでぼんやりしていたこともあって夢の中のできごとみたいだった。カメラを向ける前にどこかへとんでってしまった。
別の日に、赤とんぼをみた。関東で赤とんぼをみるのははじめてで、いなかで見るものより朱色が強い。いなかで見ていたのはアキアカネ、朱色が強いのはナツアカネというらしい。赤とんぼ、お父さんとすれ違ったような懐かしさがある。
こんなに暑いけれど夏は終わりの予感をいつも用意している。
古本いちの110円ワゴンでみつけた角田光代。
『月刊アサヒグラフ パーソン』連載の恋愛論、『朝日新聞』連載の「本と一緒に歩くのだ」などのほか書き下ろしも含む、「ごくふつうに過ぎていく日々」を綴った最新エッセー集。