まみ めも

つむじまがりといわれます

たいのおかしら

銀杏のはっぱがあしもとでかさこそと乾いた音をたてると、関東の冬だなあと思う。はやく薄暗くなる夕方に、黄色く散り敷いた落ち葉があかるい。

こどもたちからせがまれて焼き芋をつくったら、みんなハマってしまい、第一次焼き芋ブームが到来した。180℃のオーブンに濡らした芋をいれて一時間焼く。貧乏人の性で、オーブンを使うときに芋だけというのがなんだかもったいなくて、横でパンやパプリカやケーキを焼いたりしている。パプリカはただ焼いて皮をむいて冷やすだけ。味つけもいらない。家族はだれも箸をつけないのでひとりでむしゃむしゃ食べる。

たいのおかしら (集英社文庫)

たいのおかしら (集英社文庫)

 

ト。

虫歯治療用の笑気ガスがもたらした、とんでもない幻想。朝から晩まで台所の床に寝そべり続けて、親を泣かせた中学生時代。はじめて明かされる、たよりなく取り柄もないが憎めない男・父ヒロシの半生…。日常のなかで出会うトホホな出来事や懐かしい思い出がつまった、爆笑エッセイ。

歯医者に行く

タンスを求めて

英会話の学習

グッピーの惨劇

町に来たTVにでてる人

独自の研究

習字のおけいこ

消えたドーナツ

小杉のばばあ

写真〔ほか〕

小杉のばばあがよかった。さくらももこの胸に宿っていたちんまりとしたものは、さくらももこがいなくなった世界にも灯っている。

まあまあの日々

朝はほんの少しだけ早く家を出て、乗り換えの駅のホームで列に並び電車を一本やり過ごして次の電車に座ることにしている。そこで本をぺらぺらと読むときの指先がかじかむようになってきた。いまデスクのある部屋は西の窓に富士山がみえ、南の窓にスカイツリーがみえる。富士山のほうがずいぶん大きい。平野の向こうにプッチンプリンみたいな山がでーんとある景色は北陸育ちにはひどくユニークに見える。静岡育ちの先輩が、静岡の人間が富士山を描くときには左に見えているあのでっぱりを右側に描くんだといっていた。いまの富士山は東側が刷毛で塗ったように白くなっている。

まあまあの日々 (角川文庫)

まあまあの日々 (角川文庫)

  • 作者:群 ようこ
  • 発売日: 2018/10/24
  • メディア: 文庫
 

ト。

アイドルの歌にあわせて踊ってみたら息があがり、エスカレーターに乗ろうとすればタイミングが合わない…。物忘れや体調不良を毒づきながら、かわしながらの日常を綴る。『岩手日報』等のPR誌『くらしの知恵』連載を文庫化。

「中年の本棚」で群ようこのことを思い出して久しぶりに読んでみた。おなじヨーコでも佐野洋子に比べてじめっとしている。ほんとうにまあまあのことしか書いてないので、ちょっとくたびれた。

鳥たち

日曜は鎌倉から義父母がきて、アスターでお昼をのんびりとご馳走になり、デパートでこどもたちになんやかやと洋服を見繕ってもらった。デパートはクリスマスの売り場が華やかだった。暖房のきいた店内がきらきらするので暑くてぼうっとなって、義父は椅子に腰掛けて居眠りしていた。夜はお刺身にありもののおかずで簡単に済ませた。義母がたんまりおかずを持ってきてくれたので、今週はごはんのことを考えなくてよい。それにしても、アスターのタピオカのココナッツミルクがおいしい。小豆が底に沈んでいて、アイスクリームが添えてある。タピオカは少し前にはやったようなぶりぶりしたのではなくて、小粒で、ココナッツもほんのりとして品がある。アスターの食事は、タピオカのココナッツミルクという定められたゴールに向かってはやる気持ちを焦らされるゲームみたいなところがある。

鳥たち (集英社文庫)

鳥たち (集英社文庫)

 

ト。

家族を失い、天涯孤独で身を寄せ合う「まこ」と「嵯峨」。お互いしか癒せない淋しさを抱えた、ふたりの恋のかたちとは。魂の救済を描いた、静かな祈りに包まれる長編小説。

さくらももこのエッセイによしもとばななが出てきて、久しぶりに読んでみるかと思って読んだけれど、よしもとばななの小説を味わう舌をもっていないのではないか問題が再燃した。

本と体

駅前の八百屋がすごくいい。なんたってポップがいい。手書きで「押さないで 桃がそっと つぶやいた」なんて書いてあって、桃が涙を流している絵が添えてある。レジの前にはぴらぴらと何枚にもわたって「あと少しです グッとこらえて 間を開けてください」と感染予防もしっかりしている。しばらく前からポイントカードが導入されて、お誕生日の前後にお店にいってポイントカードをかざすと、ハッピーバースデーが流れる。ときどきハッピーバースデーの流れる人がいると、おめでとうとレジの人やまわりの人が声をかけたりしている。早くハッピーバースデーを鳴らしたい。こないだは孫と買い物にきているおじいちゃんが、ぶっと屁をこいて、孫に、じいちゃんおならした?と注意されていた。ポイントカードのイラストと同じフォルムのおかみさんがいる。

本と体

本と体

 

ト。

「ゼロになるからだ」「わたしのおいわいのとき」「うさぎのまんが」…。食とことばの料理家・高山なおみが綴った、26冊の感想文を収録。画家・中野真典らとの対談も掲載する。『読売新聞』連載をもとに、加筆して単行本化。

高山なおみのことは、どんどんわからなくなる人だと思う。なんかちょっとこわいというのが本音だ。本当のところは誰のこともわかるはずがないのだけど。

人生ベストテン

土曜日が今年一番早い日の入りで、とにかく冷え込む雨の一日だった。編みものの本を眺めていたらむらむらきていてもたってもおられなくなり、編み棒と毛糸を買いこんで、編み始めてしまった。生成りのアルパカの糸で模様編みに初挑戦している。ビールを飲みながら目数をまちがえてしまい、なん段かほどいてやり直したり、ところどころ怪しいところもありながら、だんだん調子に乗ってきた。サザエさんで、編みものにとりかかるサザエが、家族の人数ぶんの折り詰めの弁当を買ってきて、やるわよーといって台所仕事を放り出して編みものをやってたっけ。サザエの気持ちがよくわかる。

人生ベストテン (講談社文庫)

人生ベストテン (講談社文庫)

 

ト。

40歳を目前にして、人生のイベントベストテンを自虐的に並べてみれば、我が身には25年間、なにも起きてはいないのだ。年相応の達成感も充実感もない日々に愕然としながら、私は岸田有作に会いに行く。13歳の夏に恋をした相手に――どこにでもある出会いが生み出す、おかしくいとしいドラマ、全6篇。

「登場人物たちと同じ行く当てのなさを僕自身も抱え込んでいる。」――<イッセー尾形「解説より」>

床下の日常

観光旅行

飛行機と水族館

テラスでお茶を

人生ベストテン

貸し出しデート

倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使 /岡野大嗣

なんだけど、ケーキと花束をかかえた男は天使ではなくてストーカーにされてしまってる。やってることはストーカーなんだよな。自分の気持ちにまっすぐで、よっぽど純粋なんだけど。人生のままならなさよ。

急に具合が悪くなる

先週の金曜、やどの誕生日だった。日曜日、奔走し、肉や酒を買い込み、チョコレートを溶かしクリームを泡立てバナナをつぶしケーキをこさえる。胃がきりきりするのを漢方薬でごまかしながら、夜、ぶどうジュースとスパークリングワインで乾杯をして、肉と野菜をじゃんじゃん焼く。ピータン豆腐、大根と水菜のサラダ。食後にみんなでハッピーバースデーをうたってプレゼントを渡し、ケーキを食べて、パーティーはおひらき。

急に具合が悪くなる

急に具合が悪くなる

 

ト。

がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者が、死と生、別れと出会い、そして出会いを新たな始まりに変えることを巡り、人生を賭けて交わした20通の往復書簡。

たましいが響きあいふるえる手紙たち。手紙をしたためる思考力と筆力とユーモアとそれを受け止める相手と。ものすごくうつくしいものに触れる読書体験だった。

中年の本棚

おとうさんの命日だった。春夏秋冬の一年が過ぎることに怯えていたわりには、慌ただしい日常で昼過ぎまで命日のことを思いださずにいた。思い出にびびって、柿柚子も作らずにいる。クマノミズキのはちみつも、ずっと蓋をしたままになっている。前に、親戚のおばさんが、亡くなった自分の父親のために生前買ったバナナを、真っ黒になっても捨てられずそのまま冷凍庫に入れっぱなしにしてあると言っていて、ホラーだと思ったけれど、自分もホラーへの第一歩を確実に踏み出している。

げんちゃんが急によちよち歩きをはじめて、怖いもの知らずで食卓にあがったりする。夕飯の支度をしながら、食卓からおろして、抵抗するのを離れたところにおろすのだけれど、よちよち歩きのくせにまっしぐらに最短ルートで食卓にあがるので、二分おきくらいに食卓からおろす羽目になり、ほんとうに目が離せない。ほかの子を注意したときになんにもわかってないくせにハイ!と威勢よく返事したりする。

中年の本棚

中年の本棚

 

ト。

気力・体力の衰え、老いの徴候、残り時間…。人は誰でも初めて中年になる。この先、いったい何ができるのか。“中年の大先輩”と“新中年”に教えを乞う読書エッセイ。『scripta』連載に書き下ろしを加え書籍化。

「四十初惑」考/時をかける中年/サブカル中年の話/上機嫌な中年になるには/「真贋」を見分ける/「林住期」の読書/日曜○○家/プロ棋士の“四十歳本”/仕事をやめたくなるとき/「フォーティーズ・クライシス」の研究/「青春崇拝」と年相応/「ガンダム世代」、中年になる/水木しげる、長寿と幸福の秘訣/「中年シングル」の課題/それぞれのかたち/『赤グリ』と『青グリ』/中年の文学/“世の中とうまくやってけないけどなんとか生きてる”先輩/文学中年の課題/尾崎一雄の「小さな部屋」/「下流中年」の生きる道/中年フリーランスの壁/色川武大、「心臓破り」の五十路/“新中年”に学ぶ/「中年男」のライフ・コース/「輝く中年」の孤独/さらされるバブル世代/「昨日できなかったことが今日できるようになる」/橋本治、明日の中年のために

毎回、名前の読みを確認してしまう。オギハラが正解。