まみ めも

つむじまがりといわれます

たのしい暮しの断片

ほうれん草は根っこが好きで、根元があかく滲んだほうれん草を見るといてもたってもいられず求めて、茹で上がった根のところを切り落としてつまんでいる。そんな話をおばにしたら、やっぱり同じようにほうれん草の根元が好きな人がいて、旦那さんのお皿においしいからと根元を選って渡していたのを、旦那さんのほうは、いらない部分をいつも寄越していると思って黙って食べていた、あるとき、お嫁さんの好意だと知ってふたりで笑った、という話をきいた。八百屋の陳列にほうれん草のあかいねっこを見つけるたびに思い出し、ほんのり胸の奥にあたたかさがともるエピソード。

鎌倉からの荷物のなかに新聞紙にくるまれた菜花があって、フライパンでじっくり焼きめをつけてから、しょうゆであぶった油揚げと合わせて、マスタードバルサミコで和えた。春の野菜のえぐみがしっかりある。春の訪れ自体はすこし憂鬱で、この、春に向かう往路にいつまでも佇んでいたい。

たのしい暮しの断片

たのしい暮しの断片

 

ト。

「婦人雑誌」の料理、食卓上の道具、散歩の楽しみ、猫の毛の色…。些末で豊かな日常のなかの「気持ちの良いこと」を描いたエッセイ集。「待つこと、忘れること?」の続篇。『天然生活』連載を中心に単行本化。

駅の向こうの図書館で年明けから「本とごちそう」のテーマで本棚が作られていて、その中から選んだ一冊。金井美恵子の姉である金井久美子の作品が、暮らしとおはなしを混ぜこぜにしたようなでも無口な世界観でとてもいい。おしゃれだとかていねいな暮らしだとか、そういうものとは離れて、居心地よく好きに暮らすという姿勢なのがよかった。